第5弾 県央

エンマリ・にんまり・街ぶらり
新潟日報 2021/05/20

<2> 三条・燕(下) こだわり こそものづくり 手作業の逸品に襟正す

玉川堂→諏訪田製作所

玉川堂

 「未来のチカラ in 県央」で、ラジオパーソナリティーとしての「原点の地」の魅力を発信しようと駆けつけてくれた遠藤麻理さん。歩く先々で「ラジオ聞いてます」と声がかかる。「燕三条エフエムにいたのは20年以上も前なのに、ありがたいですね」としみじみ。「(県央は)人の癖が強いところが好き。こだわらないと、ものづくりはできないからなんでしょうね」とほほ笑んだ。

 そんなものづくりの老舗、鎚起ついき銅器の「玉川堂ぎょくせんどう」(燕市)の製作工場を見学した。創業200年余りで、建物は国登録有形文化財。玄関をくぐり奥へ進むと、天井が高い製作工場に出る。腰掛けて作業するケヤキの台がそこここに配置され、何種類もの金づちや代々伝わる道具が並ぶ空間は、タイムスリップしたような気持ちにさせる。

見上げるほどの高さまで掛けて収納される道具類。どれも使い込まれ、脈々と技術が伝承されてきたことを伝える=燕市の玉川堂

見上げるほどの高さまで掛けて収納される道具類。どれも使い込まれ、脈々と技術が伝承されてきたことを伝える=燕市の玉川堂

 工場長の玉川たまがわ達士さん(51)が、1枚の銅板をたたいてやかんのような形にしていく工程を説明し、カンカンカンと高いつち音を響かせ実演してくれた。熱心に玉川さんの手元を見ていた遠藤さんは、ふいに「たたいている時って、何を考えているんですか」。玉川さんは戸惑い気味に「疲れたなあ、とか」と笑いながら答えた。

 三条鍛冶道場でのペーパーナイフ作りで金づち操作に苦労した遠藤さん、「狙った場所をたたいて美しく仕上げる職人のすごさを再認識した」と感心しきりだった。

玉川達士さんの作業をじっと見守る遠藤麻理さん=燕市の玉川堂

玉川達士さんの作業をじっと見守る遠藤麻理さん=燕市の玉川堂

諏訪田製作所

 次に訪れたのは、ニッパー型の高級爪切りで知られる諏訪田製作所(三条市)が、昨夏開業した新工場。田園の中に、カフェや直営ショップを併設したおしゃれな建物が目を引く。

 まず入り口広場にでんと置かれた、三条市名誉市民でプロレスラーの故ジャイアント馬場さんの愛車キャデラックに圧倒される。昨年、市に寄贈された。遠藤さんは巨大さに驚き、「日本の道では運転は難しそう」とつぶやいた。

ジャイアント馬場さんの愛車キャデラックを観察する遠藤麻理さん=三条市の諏訪田製作所

ジャイアント馬場さんの愛車キャデラックを観察する遠藤麻理さん=三条市の諏訪田製作所

 工場を案内してくれたのは、遠藤さんのファンでガイド役に立候補したという製造部課長の清田昌布まさのぶさん(38)。同社の爪切りは完成までに50もの工程があり、全て手作業という。工場内の作業場はガラス張りで、来客が見学できる。遠藤さんが「常に見られて気が散りませんか?」と素朴な疑問を投げかけると、「最初はそういう声もあったけれど、お客さまの顔が見えることでやりがいが生まれると今は皆言っています」と清田さんは爽やかに笑った。

 ショップで爪切りを試した遠藤さんは、「わー、気持ちいい。断面も全くざらつかない」と感動。緻密な製作工程と丁寧なメンテナンスを体感し「諏訪田って、あー、あの爪切りの、とか言ってたけど、今は『あー、あの』とか言ってんじゃねーよ、と自分を戒めたい」と反省した。

 玉川堂も諏訪田製作所も、若い職人や社員が多いという。「これからの時代、いいものを大切に使い続けることが重視されると思う。若い人ほどそういう価値に気付き始めているのではないか」と、遠藤さんは表情を引き締めた。

爪切り作りの工程を見学し「ほんとに全て手作業なんですね」と感心する遠藤麻理さん=三条市の諏訪田製作所

爪切り作りの工程を見学し「ほんとに全て手作業なんですね」と感心する遠藤麻理さん=三条市の諏訪田製作所

【動画】 エンマリ・にんまり・街ぶらり <2> 三条・燕(下)

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