南魚沼市大崎の龍谷寺の欄間にある石川雲蝶の作品は、壮絶なストーリーの一場面だ。南魚沼雲蝶会会長の中島すい子さんにそこから話を始めてもらった。
龍谷寺の欄間にある石川雲蝶の彫刻。僧が振り上げた櫂は欄間の枠から飛び出している
昔、中国の僧が船頭に姿を変えて、自らの仏法を教える優秀な弟子を探していました。僧はある日、船に乗り込んできた男を川に落として禅問答を交わします。禅問答に満足した僧は、男に仏法を教えた後、川に身を沈めたのです。
僧が振り上げているのは、水をかいて船を進めるための
雲蝶さんの作品の大きな特徴の一つが躍動感。静止しているものはほとんどありません。この作品は、数ある作品の中でも指折りの躍動感です。
僧の手と櫂はつながっており、一本の木から掘り出されています。後で付け足したものではないのです。雲蝶さんの発想と技術には驚かされます。
荒々しい川の波をどこかで見た覚えはありませんか。雲蝶さんは浮世絵師、葛飾北斎にとても憧れていたといわれ、その作品のタッチを取り入れたのではないかと考えられます。
この作品の裏には、静かな夏の朝の風景が彫られている。表とは対照的な作品だ。
アサガオの花の周りをチョウが舞う。夏の朝の風景を彫った作品
ブドウの木にアサガオのつるがからみ、ハチが巣を作っています。花の周りをチョウが舞い、根元にカタツムリがはっています。
シンプルな作品なので、「雲蝶さんは手抜きをしたのだろうか」と思う人がいるかもしれませんが、そうではありません。
アサガオの葉をよく見ると、貼ったものではなく、周りの木を削り取って浮き彫りにしています。
集中力を長い時間持続しなければならなかったでしょう。普通の人には想像もつかない作業だったと思います。作品には決して手を抜かない職人魂が感じられます。
荒々しさと静けさ、強と弱、明と暗-。これらの組み合わせは、雲蝶さんの特技の一つです。
見る者の心をいったん驚かせた後に、なごませる。見る者を飽きさせないための工夫だったのでしょう。
(魚沼総局長・中川一好)
龍谷寺
住所:南魚沼市大崎3455
TEL:025-779-2020