第1弾 上越地域

高田世界館10年 物語はここから

<4> 拠点性

カフェ、民泊 人々集う 空間活用 若者取り込みへ

新潟日報 2019/05/10

 映画の感動と興奮が冷めないうちに、コーヒー片手に余韻に浸る。昨年3月、高田世界館の隣にカフェができた。その名も「世界ノトナリ」。改装した築約90年の町家は、平日はシニア層、土日祝日は観光客でにぎわう憩いの空間だ。

 共同経営者の一人、大久保喜和さん(61)=上越市=はもともと世界館のファン。「世界館の周りは飲食店が乏しい。ずっと欲しいと思っていた」と自身の願望が出発点だった。来店客からは「私が開きたかったのに」「先を越された」と言った声も聞く。

お客でにぎわうカフェ「世界ノトナリ」。高田世界館利用者や近隣住民の憩いの場だ=上越市本町6

 世界館周辺ではレストランの進出を模索する動きがあり、にぎわいの輪が拡大する気配が漂う。民泊「雁木がんぎの宿 町の家」は2018年夏、世界館の真裏に開業。マサラ上映の際は、県外客で満室だ。管理人の町凌介さん(29)は「町家を活用した開業の事例が周辺に増えれば、進出のハードルはより下がるはず」と活性化への期待を語る。

 上越市は年度内に世界館と世界ノトナリが接する土地を「交流広場」として整備する。多目的公園のようなイメージで設計し、回遊拠点としての機能を高める狙いがある。

]

 市は昨年12月、高田地区に所有する歴史的建築物の来訪者に関するデータを公表。2013年度と17年度の比較で、世界館向かいにある町家交流館高田小町の市外見学者数が約2.7倍、旧今井染物屋の1日当たりの見学者数が約1.6倍に増えるなど、どの施設も利用が伸びた。北陸新幹線の開業効果も手伝い、周辺の活気向上が数字に表れた。市文化振興課の岩崎一彦課長は「あのエリアの核が世界館であることは間違いない。交流広場ができたら、うまく連携を取っていきたい」と語る。

 お年寄りや観光客によるにぎわいは少しずつ広がってきた。ただそこに「若者が足りない」という声は根強い。世界館の利用者も中高年が中心だ。そのため、上映作品は主に、平日の日中に時間を持てるシニア女性をターゲットにラインアップを組んでいる。

 20、30代の子育て世代の利用促進へ、17年には託児サービスを実施した。だが、利用は伸びず、数回で廃止した。上野迪音みちなり支配人(31)は「未来の利用者を生む投資はしていきたいが、少ないパイに労力を掛けるのは経営に余裕がないとできない」ともどかしさをにじませる。

 映画館で映画を見ない世代をどう取り込むか。上野さんは「世界館のいろんな使い方を提案したい。この空間で遊びたい」と突破口を見いだそうとする。3月に開いた初の婚活イベントは、「提案」の一つだ。参加者30人のうち、約9割が初めての来館だった。ある参加女性(29)は近隣に住み、映画も好きだが「何となく入りづらい」と敬遠していた。イベントを通じ「スタッフに親しみを持てた。次は映画を見に来たい」と笑顔を見せた。

 音楽ライブやトークイベント、結婚式…。世界館は200人規模を収容する、街中のイベントスペースとしても捉えられる。世界館スタッフの石田美穂さん(35)=妙高市=は「映画に限らず、いろんなジャンルを好きな人が集まる。世界館で出会い、『好き』でつながり、輪が広がっていく光景を見るのが楽しい」とほほ笑む。試行錯誤を楽しみながら、若者が輝く街へ歩を進める。

[ 高田世界館10年 物語はここから ] 記事一覧