第1弾 上越地域

上越発 起業のカタチ

<1> もんぺ製作所 赤木美名子さん(45)=上越吉川区=

東京の技術 県産素材に 山間部拠点 ブランド創設

新潟日報 2021/02/09

 新たなビジネスチャンスを切り開く「起業」に挑む人々が、上越地域の各地で活躍している。都会の息苦しさに見切りを付け、新天地を求めたり、ふるさとを盛り上げようと一念発起したり、きっかけはさまざま。もんぺの製作やアプリ開発などバラエティーに富む。上越で芽吹き始めた「起業のカタチ」を紹介する。

 上越市の中心部から車で東へ約1時間。吉川区の最奥、山深いみなもと地区・上名木にある閉館した温浴施設の一室に、別世界が広がっている。

 壁や内装は白色で統一され、床はフローリング。ハンガーラックにはもんぺがずらりと並ぶ。

 「もんぺ製作所 山のなかの試着室」。2013年に吉川区に移住した赤木美名子さん(45)が、自身が立ち上げたもんぺブランドの拠点として和室を改修し、昨年6月に開設した。

 世界に一つしかないオーダーメードのもんぺを求め、県内外の人々が訪れる。100種類以上ある柄の中から好きなデザインを選んでもらい、その場で採寸する。仕立て上げ、郵送する。

 「単に服を作るだけでなく、ここに来ることも楽しんで、山間部のことを知ってもらえれば」。赤木さんは狙いを語る。

 今回の豪雪では、停電に遭ったり、車が立ち往生したり、自身も雪国で暮らすことの「リアル」に直面した。それでも、「山間部で暮らすすべを学べた気がする」と前向きだ。

閉館した温浴施設を改装した「試着室」で、もんぺの出来栄えを確認する赤木美名子さん=上越市吉川区上名木

 岡山県出身。東京の文化服装学院を卒業後、1998年にアパレル大手のオンワード樫山に入社した。

 デザイナーの描いたデザイン画を型紙(パターン)におこして立体化する「パタンナー」として技術を磨いた。2004年に独立。人気アイドルグループの「嵐」や「AKB48」のステージ衣装にも関わった。

 着実にキャリアを築いていた赤木さんに転機が訪れた。「酒造りがしたい」。夫の幹典さん(48)=千葉県出身=から、抱いていた夢を告げられた。

 吉川杜氏とうじを育んだ吉川区を12年に初めて訪れ、夫婦で酒造り体験のイベントに参加していた。その後も度々訪れるようになり、地元の人々と交流を深めていた。

 移住に迷いはあった。だが、都会での会社員生活に神経をすり減らしている夫の姿を見るのが忍びなかった。「やりたいことをやらせてあげたい」。13年、吉川へ引っ越した。

 幹典さんは第三セクターの酒蔵「よしかわ杜氏の郷」で修業を始めた。新生活1年後には長女の櫻子ちゃんが誕生した。赤木さんにも新たな展開が待っていた。

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 一家でコメ作りを始め、野良着のもんぺを自作し、会員制交流サイト(SNS)に写真を投稿したところ、「私も欲しい」との声が相次いだ。

 大賀集落の自宅で「もんぺ製作所」を立ち上げ、2年前に本格的に販売を開始。生地には新潟市江南区の伝統織物「亀田じま」を採用した。「メードイン新潟にこだわった」

 紺やグレー、黒と金色など鮮やかなストライプが目を引く。県産素材に東京で培った技術を注ぎ込み、スマートなシルエットが特徴だ。

 上越や新潟市などで展示会も開き、多い月で40着の受注がある。現在は製造が追いつかず、納品は2カ月待ちの状態だ。

 注文の増加に合わせ、地元の女性たちを縫製担当として雇い始めた。

 「事業の規模を拡大するかどうか、じっくりと考えている。もんぺに似合う上着を作るのも面白い」。構想を膨らませている。

 (上越支社・市野瀬亮)

<県内の起業・開業> 新規の事業所がどれだけ開設されたかを示す「開業率」を見ると、本県は近年、全国平均の5%前後を下回る2~3%台と低迷し、全国順位も下位に沈んでいる。巻き返しを図ろうと、県は民間と連携して2019年から、起業希望者を支援する「スタートアップ拠点」を新潟、燕、上越各市などで順次開設している。上越市では、市や商工会議所、金融機関でつくる「創業支援ネットワーク」が、相談から経営サポートまで幅広い支援に当たっている。

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