糸魚川市能生地域の商店街の一角。電気店を改装した室内に、小型無人機(ドローン)やデジタルカメラなどの撮影機材のほか、動画編集に使う大型ディスプレーが所狭しと並ぶ。
周りの家々が寝静まったオフィスで、徹夜の編集作業をこなすこともしばしば。デスクの足元で布団にくるまり仮眠する日もある。
「編集作業を始めると没頭して、すぐに時間が過ぎる。でも、作品が出来上がるのは楽しいですね」。仲間2人と2020年5月、「ムービークリエイト Re:GOLITH(レゴリス)」を立ち上げた代表の須崎裕光さん(26)が、日々の仕事を振り返る。
子どもの頃から音響や映像機器を操作するのが好きで、高校卒業後、板前仕事と並行して趣味の動画撮影を続けた。次第に地元の人々や風景を素材にした作品作りに魅了されていった。
日ごろ撮影した画像を確認し合って談笑するレゴリスの3人。右から須崎裕光さん、小池京平さん、水嶋萌さん=糸魚川市
「糸魚川で映像作品をつくる会社をつくろうかな」。募る思いを、中学時代から一緒に活動していた小池京平さん(26)に打ち明け意気投合。2人の共通の友人でもある水嶋萌さん(23)も誘った。3人とも転職を決断しての起業だった。
社名の「レゴリス」は「月面上の砂」という意味で、人に感動を与える唯一無二の作品を創造するとの願いが込められている。
これまで制作した作品は、結婚式や同級会の記念ムービー、企業のプロモーション映像など。昨年は糸魚川市からの依頼で「新潟ふるさとCM大賞」の出品作も手掛けた。能生の弁天岩や小滝のヒスイ峡を映したドローン画像を駆使。完成作は県内の民放テレビでも紹介された。
若者らしい斬新さと地域愛があふれている-。放映後、周囲の評価は上々だった。小池さんは「作品への反応を耳にすると、気持ちが盛り上がる」と照れ笑いを浮かべ、水島さんも「『ものをつくる』という仕事にやりがいを感じている」としみじみ語る。
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映像制作をメインにしつつ、企業・団体のホームページ作成やスマホを使った撮影講習など、3人の特技を生かし多角的な業務を請け負う。昨年末、市教育委員会が主催した中学生キャリアフェスティバルでは、出店企業のブースにドローンを持ち込んで、中学生たちに“故郷を撮る”楽しさをアピールした。
一方で須崎さんと小池さんは空撮技術を生かし、糸魚川市消防団ドローン隊に所属。災害や山岳救助への出動要請に備えるなど地域貢献にも尽力している。
市内を訪れる観光客らから「糸魚川は発信下手」との評を耳にする。豊かな自然や特産品、名所旧跡など他地域にない優れた素材を生かし切れていないのがその理由だ。
だからこそ、3人には胸に秘めた熱い思いがある。「自分たちの手で糸魚川の発信力を高めたい」。生まれ育った地域を愛する若者たちの挑戦は始まったばかりだ。
(糸魚川支局長・大日方英樹)