第1弾 上越地域

上越発 起業のカタチ

<5> 中條鍼灸院・整骨院 中條佑哉さん(32)=上越大島区=

「孫ターン」で移住・独立 定期ケアで高齢者支える

新潟日報 2021/02/20

 上越市大島区の中心部・大平に予約制の「中條鍼灸しんきゅう院・整骨院」がある。約3年前に移住した中條佑哉さん(32)が、国道から100メートルほど離れた旧祖母宅の一部を改装し、鍼灸師と柔道整復師の二つの資格を生かして施術を行っている。

 仕切られた奥の部屋にベッドが一つ、棚には施術に使う器具や専門書籍などが並ぶ。捻挫など急なけがに対する診療も行うが、メインに据えるのは、慢性症状への定期ケアだ。

 2017年12月に開業して1年半ほどで毎日継続的に予約が入るようになり、昨年の繁忙期には1日10人以上を施術した。大島区の住民を中心に、口コミで十日町市や妙高市などからも患者が訪れる。

 自身は近くの市営住宅に住み、不定休で土日も対応する。休みは1週間に1日程度だが、講習会などに合わせ、柔軟に対応できるスタイルを気に入っている。

 今冬の豪雪で自宅から出られない期間も、自己研さんの時間に充てた。「一人ですべてやっているからできる。企業ではできない」

体のバランス維持へ、ひもを使ったトレーニング方法を伝える中條佑哉さん=上越市大島区

 大阪府堺市で生まれ育った。高校では体育科でサッカーに打ち込み、卒業後は大阪で複数の店舗を展開する鍼灸院・整骨院で働きながら資格を取得し、約10年経験を積んだ。

 大島区は父親の故郷。田植えなどに合わせ、小さい時からよく訪れていた。祖父母ゆかりの地域に移住する「孫ターン」での開業を計画したのは、祖母が高齢になり、生活に支障を来していることを帰省時に目にしたからだった。

 大阪で勤務していた最後の3年間は医師やケアマネジャーと連携して訪問鍼灸を行っていた。福祉サービスの利用方法などにも詳しくなっていた。「自分の知識や技術が役に立つはずだと思った」

 そんな移住・開業に向けて動き出したさなか、祖母が他界した。移住する理由がなくなり、迷った時期もあったが予定通り独立開業に踏み切った。「亡くなった祖母と同様に、地域のお年寄りが限界まで福祉サービスを使わず、我慢していると気付いたから」と振り返る。

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 施術では患者に合った方法を柔軟に提案することを心掛ける。体のバランスを整えてもらえるよう、ひもを使ったトレーニング方法などを伝えることもある。

 自力通院が難しい東頸城地域の患者宅への訪問鍼灸や、地域の介護予防教室などでQOL(生活の質)を保つ運動の紹介などにも取り組む。

 「自宅でできる予防運動も、医療や介護などの制度利用も、知らなければできない。情報に触れるきっかけづくりができたら」と話す。

 介護予防教室などで高齢者と交流することも多い。亡き祖母と親交があった近所の人からは「帰ってきてくれてありがとう」と感謝される。

 移住後に、大阪時代からの交際を実らせ結婚、昨年には子どもも生まれた。支えてくれる人への感謝は尽きない。「地域の人が親切に接してくれる。人と人とのつながりで仕事をもらっている」と笑った。(おわり)

 (上越支社・加藤清也、この連載の写真は同・荒川慶太、永井隆司が担当しました)

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