第1弾 上越地域

上越発 起業のカタチ

<2> ハブファクトリー 太田昌幸さん(41)=上越=

感染拡大 Uターン決意 リモートでアプリを開発

新潟日報 2021/02/10

 上越妙高駅(上越市)の西口に、2階建てのアパートのような建物がある。県が支援する起業家らを対象とした貸しスペース「フルサットシェア」。牧区出身のITエンジニア・太田昌幸さん(41)はここの一室で、スマートフォン用アプリの開発を続けている。

 社員は太田さん一人。机の上には大型モニターが1台置かれている。太田さんがキーボードを打つたびに、画面には数字やアルファベットが暗号のように並んでいく。

 「ネット環境さえあれば、場所を選ばずに仕事ができる」。東京の大手広告代理店から依頼を受けたアプリを制作するほか、ランニング中にオリジナルのキャラクターが応援してくれるアプリなどを独自に開発している。

「思いついたアイデアを形にできるのも魅力」。アプリのプログラムを打ち込む太田昌幸さん=上越市のフルサットシェア

 明治学院大学を卒業後、都内のウェブサイト制作会社に入社した。プログラミングの知識を習得しつつ、「いずれはフリーになりたい」という夢を抱いてきた。

 半導体専門の商社に転職して営業経験を積んだ後、2012年、ITエンジニアとして独立。中学時代の同級生と組んでいた音楽ユニットの「ハブファクトリー」を社名に、渋谷にオフィスを構えた。

 動物園内で起動するとスタンプラリーを楽しめるものや、病院で使われる電子カルテなど、20種類以上のアプリに関わった。

 「作っていくうちに、どんどん形になっていくのがおもしろい」。開発に没頭する日々を過ごしていた。

 そんな太田さんが「Uターン」を決意するきっかけとなったのが、首都圏を中心とする新型コロナウイルスの感染拡大だった。

 アプリ開発では、フリーランスを含めて10~20人ぐらいがチームを組む。メンバーとは週に数回、顔を合わせていた。

 しかし、外出自粛で会議を含めて仕事はすべてリモートになった。感染収束のめどが立たない東京にいる必要はなくなった。

 2歳の長男がぜんそく気味で、空気の良いふるさとに「いずれは戻りたい」という思いも、前々からあったという。

 昨年10月、東京のオフィスを引き払い、上越に帰ってきた。

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 故郷で久々に過ごす冬は豪雪となった。オフィスには行かず、牧区の自宅で開発を続けた。仕事の合間には、長男と一緒にかまくらを作って楽しんだ。

 リモートワークを主体にできるIT業界の強みを再確認し、家族と過ごす時間も増えた。「上越でも変わりなく仕事ができている」と満足そうだ。

 新生活が軌道に乗るにつれ、人材育成にも関心が向き始めている。

 IT業界では首都圏に出て人脈を築いた上で、そこから仕事を得るケースが多く、土着の人材はまだまだ少ないと感じている。

 「エンジニアになりたい人が、上越にいたままでも仕事ができる。そんな環境を構築していけたら」と、方策を模索している。

 今後は東京からの受諾事業だけでなく、自社サービスの拡充も目指している。「発想段階からオリジナルのアプリをどんどん作っていきたい」。上越発・IT起業の先駆けとなるつもりだ。

 (上越支社・本間友理恵)

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