第1弾 上越地域

上越発 起業のカタチ

<4> こつぼねの家 諸岡龍也さん(39)=妙高=

農家民宿で暮らし伝え 人と人つなぐ交流拠点に

新潟日報 2021/02/16

 昔ながらの土間に、豪雪にも耐えるはり、広い空間-。築140年以上の古民家に足を踏み入れた時、まきやかまどを使った作業やわら仕事など、かつての暮らしの様子が浮かび上がるように見えてきた。

 「この場所でできることの想像がどんどん膨らんでいったんです」。節々から歴史や物語を感じさせる古民家の中で、諸岡龍也さん(39)が振り返る。

 妙高市新井南部の雪深い小局集落に、農家民宿「こつぼねの家」を先月本格的にオープンさせた。同市瑞穂地区の活性化を支援する「地域のこし協力隊」を昨夏まで3年間務め、その間に紹介されて移り住んだ古民家を改装して開業。同市の協力隊員が退任後に市内に定住し、起業するのは初めてのこと。

 諸岡さんが目指すのは、自らが魅了された地域の姿そのものを伝える拠点だ。

いろりを前に「遊び心を持ち、自然と生きる暮らしの豊かさに触れてもらいたい」と語る諸岡龍也さん=妙高市

 大阪府出身。保育士として働いていたが、子どもたちに伝えられることを考えた時に自然を学び直す必要性を感じ、32歳で妙高市の国際自然環境アウトドア専門学校に入学した。2017年には協力隊に着任し、地元NPOの活動支援や農業のほか、住民に無料通信アプリ「LINE」を教える講座など幅広い活動ぶりで地域に溶け込んだ。

 山あいの地域で学んだのは、雪国の暮らしや住民たちの知恵だ。自然から材料や教訓を得て生活や農作業に役立てていく。何より、それを当たり前にして生きる人たちの姿に憧れた。近くの集落に数年前まであった商店のことも印象に残る。雑貨などを売る懐かしさを感じさせる店で、住民が気軽にお茶飲みに訪れる場所から、人々の活力が生まれるのを感じた。

 こうした経験や思いの積み重ねが、古民家を舞台にした農家民宿という形に結びつく。「訪れた人が地域の暮らしに触れられる交流拠点をつくりたい」

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 「こつぼねの家」は延べ床面積約200平方メートル。クラウドファンディングや市の起業支援も活用して営業に必要な水道を整備、まきで沸かす風呂は浴槽も壁もヒノキづくりにし、客間の壁は自らしっくいを塗った。協力隊退任後は市内の農業生産法人「妙高ライス」に勤務してコメ作りに取り組みながら準備し、開業にこぎ着けた。

 「こちらから提供する体験メニューを用意しすぎず、訪れた人がここでやりたいことを実現する『創作型』が理想」。かまどでご飯を炊いたり、田んぼ仕事やわら細工をしたり、地域の人と郷土食を作ったり…。協力隊員として培った経験や地域とのつながりを生かし、利用客の要望に応えていく。

 新型コロナウイルスの影響で当面宿泊は1日1組限定とし、体験の内容も制限する。営業は土日祝日。なかなか来られない客もいるが、その分時間をかけて事前にコミュニケーションを取ることができるため、「満足度の向上につなげられる」と前を向く。ウイルス禍でも可能な体験やオンラインイベントなども考えている。

 人口減少が進む地域の中で「この民宿が、また来たい、人を連れていきたいと思える場所になり、地域を知るきっかけになってほしい」。自然に囲まれた豊かな暮らしを楽しみながら、人と人をつないでいく。

(上越支社・栗原淳司)

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