「地域に愛され 地域とともに 地域の未来を創ります」-。
そんな社是を掲げるえちごトキめき鉄道(上越市)は、安全運行を第一に上越、糸魚川、妙高3市に暮らす人々の生活に密着し続け、2015年3月14日の開業から5年目に入った。
直面する課題は山積みだ。車社会の本県で、鉄道の出番は少なくなっている。沿線の人口減少にも歯止めが掛からない。2020年4月に運賃を値上げして経営改善を図るが、黒字化への道のりは遠い。
だからこそ、新たな手を打ち続けてレールの先へ進む。リゾート列車「雪月花」を柱として沿線外からの誘客を図り、地域と連携してまちづくりに取り組む。
挑戦を続けるトキ鉄の姿を追った。
えちごトキめき鉄道が運行するリゾート列車「雪月花」。沿線外からの誘客の柱として、上越地域の活性化に貢献している=上越市中郷区
田園地帯を
えちごトキめき鉄道(上越市)が誇るリゾート列車「雪月花」。これまでに数々のデザイン賞などを受賞し、今やトキ鉄の"顔"としてその人気と知名度は全国区になってきた。
雪月花が導入された背景には、同社と上越地域が抱える深刻な課題があった。鉄道の主な利用客である沿線地域の人口減少だ。
県人口移動調査によると、トキ鉄路線の営業区間となっている上越、糸魚川、妙高3市の2018年10月1日現在の推計人口は計26万5631人。08年同日の計29万16人と比べて2万4385人(8.41%)減少した。県全体の6.27%減よりも高い割合だ。9月での退任を表明しているトキ鉄の嶋津忠裕社長(74)は「地域と鉄道会社は運命共同体。何もしなければ地域は寂れていき、鉄道も利用客が減っていく」と強い危機感を口にする。
隣接する他社線からの人員も含めた1日平均の乗車人員は1万1005人(18年度実績)と、トキ鉄は地域の足として欠かせない存在だ。だが、取り巻く環境の悪化により経営は厳しさを増している。
南高田駅の日常の風景。通勤・通学の時間帯以外は利用者がまばらだ=上越市
18年度の営業収益は2年連続で減少し、純損失は前年度より1億1600万円拡大して7億円となった。15年の開業以来、JR時代から据え置いていた運賃水準を来年4月に3割程度値上げし、年間1億4千万円の増収を図る。利用客からは「経営が困難なことは理解しているので仕方ない」などと値上げを冷静に受け止める声も多い。
利用者負担の増加といった受け身の策だけではない。トキ鉄は旅客収入の増加と地域の活性化に向け、観光需要に活路を見いだしている。沿線には雄大な山々や広大な日本海があり、四季も明瞭で、「沿線外から人を呼び込める環境がある」(嶋津社長)。
その柱として構想されたのが、雪月花だった。
北陸新幹線の開業により、首都圏からの交流人口が金沢市をはじめとした北陸地方に流れることが懸念されていた中で、雪月花は県の補助金約6億円を活用して新造された。三セクの鉄道会社が観光列車を新造することは全国的にも例がないといい、石黒孝良営業部長(71)は「雪月花に与えられた使命はそれだけ大きなものだった」と振り返る。
開業から1年余りがたった16年4月23日。35人の客を乗せた雪月花は、トキ鉄と上越地域の未来へ、レールの上をゆっくりと走り始めた。
<えちごトキめき鉄道> 2015年3月14日の北陸新幹線の長野-金沢間の延伸開業に伴い、JRから経営分離された並行在来線の信越、北陸両線の一部を引き継いで開業した鉄道会社。県や上越、糸魚川、妙高3市などの出資で「県並行在来線株式会社」として10年11月に設立され、12年7月に現在の社名となった。本社は上越市。旧信越線の直江津(上越市)-妙高高原(妙高市)間の37.7キロを「妙高はねうまライン」、旧北陸線の直江津-市振(糸魚川市)間の59.3キロを「日本海ひすいライン」として運営している。