「行く先々で皆さんが手を振ってくれたり、優しく接してくれたり。地元の人の気遣いと地域への思いに触れることができました」。今月中旬、えちごトキめき鉄道(上越市)のリゾート列車「雪月花」から上越妙高駅(同市)に降り立った富山市の女性(83)は笑顔で雪月花を見つめた。
トキ鉄が目指す観光路線化に沿線地域との連携は欠かせないものとなっている。地域住民が観光客と接する中で、観光客を受け入れる土壌がより出来上がって地域に活力が生まれ、鉄道の利用客の増加にもつながると考えるからだ。そのためにトキ鉄では、できるだけ多くの人々を巻き込んで観光客と接する機会をつくろうとしている。
雪月花の「冬季特別運行」では、乗客が妙高はねうまラインの高田駅(上越市)で一度列車を降り、街並みを巡るツアーを開催。そこでガイド役を務めるのが、トキ鉄から協力を呼び掛けられた市民団体「
「最初は何をどうやればいいかも分からなかった」と代表の宮越紀祢子さん(73)は振り返るが、「とにかくおもてなしをしよう、何かを伝えよう」という思いを胸に回数を重ねるうち、答えはおのずと見つかってきた。
雪国の伝統的な防寒着であるトンビや角巻を身にまとい、高田駅に入ってきた雪月花を出迎える。歩行者が雪をよけるのに役立った雁木の残る通りを案内する。「それだけでお客さまは本当に喜んでくれる。キーワードは雪だった。私たちも地域の宝の存在に気付かせてもらえた」
ツアーの人気はリピーターも続出するほど。昨年度は同ラインの新井駅(妙高市)で途中下車し、特産の辛味調味料「かんずり」の原料となる唐辛子の雪さらしなどを体験するツアーも初めて実施した。
トンビや角巻を着て、高田駅で雪月花の乗客を迎え入れる「雁木のまち高田おもてなし隊」のメンバーら=2018年2月、上越市
国の登録有形文化財へと答申された同ラインの二本木駅(上越市中郷区)も雪月花の停車駅で、地域住民が乗客へのもてなしに力を入れている。同駅ではトキ鉄の開業前から、住民団体「中郷区まちづくり振興会」(2015年にNPO法人化)などが駅を核にした地域づくりを進めていた。現在では雪月花が停車するたびに住民らが横断幕を持って欠かさず出迎え、グッズや地域の特産品を販売するなどのおもてなしをしている。
振興会の岡田龍一理事長(43)は「トキ鉄と連携した取り組みで地域の良さを発信していくことで、多くの人に中郷区を知ってもらい、まちの活性化につながっている」と力を込める。
雪月花の運行開始から3年余りがたった今、沿線各地で住民が雪月花へ手を振る姿も増えてきた。トキ鉄と地域が一緒になり、まちを活力あるものにしようと奮闘した表れだった。