第1弾 上越地域

レールの先へ トキ鉄の挑戦

新潟日報 2019/05/30

<4> 安全 "日常"守る使命感胸に

「出向組」から技術吸収

 列車の中でスマートフォンに夢中になる若者や、うとうとと眠る高齢者。運行の安全が当たり前のものとなっているからこそ、見かけられる日常の風景だ。だが、えちごトキめき鉄道(上越市)の竹之内博運輸部長(63)は力を込める。「鉄道業に携わる人間として安全は当たり前ではない。努力しないと守れない」。昼夜、裏方に徹するトキ鉄社員が"日常"を支えている。

 5月8日深夜、暗闇に包まれた日本海ひすいラインの親不知(糸魚川市)-市振(同市)間の線路に、14人のトキ鉄社員が集まった。線路の曲がりが発生しないよう、レールとレールの隙間を調整する「遊間整正」を実地で学ぶ勉強会だ。

 通称「鉄道員ぽっぽや塾」。開業2年目の2016年度から、トキ鉄で保線や土木工事などを担う設備センターが自社社員の教育のために独自に開いている。

 開業間もない同社はもともと、専門的な知識や技術を持つJR東西からのベテラン出向者の割合が高い。トキ鉄は人件費抑制に向けて、開業後10年を目途に全社員の完全自社社員化を目指しており、昨年3月末時点で出向者と自社社員はほぼ半々となった。佐藤郁彦設備部長(61)が「鉄道会社にとって一丁目一番地」と強調する安全を確保しつつ、自社社員化を進めるために、出向組からの早期の知識・技術の継承が必須の課題となっている。

車両を点検する運転センターの佐藤涼さん。「トキ鉄には電車と気動車の二つがあるので苦労も多い」と語る=上越市

 月に1回程度開かれている鉄道員塾はその要だ。塾は自社社員の中からグループごとにリーダーを選び、自主的に学びたいことを出向組に教えてもらう形で運営されている。

 14年に入社した土木グループリーダーの冨塚稔さん(38)は「私たちは直接お客さまと接することはないが、安全を守る使命感で技術を学んでいる。安心して利用している姿を目にすると苦労も吹き飛ぶ」と笑顔で語る。

 運転士や車掌が所属し、トキ鉄が所有する全30両の車両の検修を担当する運転センターの社員も同様の思いで日々の業務に励んでいる。運転歴の浅い自社社員も少なくない中、出向組がマンツーマンの教育で基本動作を教えている。斎藤ひとし所長(62)は「過去には悲惨な事故もあったが、鉄道の長い歴史の中で受け継がれてきたものをしっかりと伝えていくことが大切だ」と話す。

 妙高はねうまラインには急勾配や冬場の豪雪、日本海ひすいラインには長大なトンネルや塩害といった困難な条件があるが、トキ鉄は「お客さま、社員の死傷事故ゼロ」「重大な事故ゼロ」を安全目標とし、開業5年目の現在も達成し続けている。

 直江津駅に隣接する検修庫では、車両のねじの緩みを確認するハンマーの音がきょうも響いている。「全てそろって初めて安全に車両を出すことができる。その土台をつくる作業はやりがいと責任感でいっぱいです」と運転センターの佐藤涼・車両係主任(42)。これからも"日常"を守るため、目を光らせ続ける。

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