えちごトキめき鉄道(上越市)が2016年4月23日に運行を開始したリゾート列車「雪月花」には、3年間で延べ約1万7100人が乗車した。18年度は乗客の83%をインバウンド(訪日観光客)を含む県外客が占め、狙い通りに旅客収入の増加と観光振興に存在感を発揮している。だが運行は土日が中心で収益面の効果は限られる。そこでトキ鉄は、運営する「妙高はねうまライン」と「日本海ひすいライン」両路線の魅力を積極的に高めて「観光路線化」を図り、雪月花との両輪で観光需要を掘り起こそうとしている。
上越市南西部の山間地、中郷区にある妙高はねうまラインの二本木駅は、戦前に建設された旧信越本線の駅舎やホーム上屋などの施設一式が残り、鉄道草創期の姿を今に伝える。折り返し線で列車の進行方向を変える「スイッチバック」式の駅構造が県内で唯一現存することでも知られている。
「トキ鉄はこんなにいい資源を持っている。沿線外のお客を呼び込めるよう、活用しない手はないと思った」。二本木駅の改修を企画した販売課の横田大輝さん(26)と設備センター企画課の須田直樹さん(26)は振り返る。
二本木駅の前に立つ横田大輝さん(左)と須田直樹さん。「駅自体に価値を付けることで人が来てくれる」と話す=上越市中郷区
昨年、市の補助金を活用して外観などのリニューアル工事を実施し、駅舎の一部を1910(明治43)年の建築当初の味わい深い姿に復元。今年3月には駅舎など駅構内の建造物7件が国の登録有形文化財に答申された。駅構内にある国登録有形文化財の数は全国で2番目に多くなるという。
有形文化財として答申された直後から二本木駅を訪れる人が増えるなど、効果はじわりと現れている。駅舎では今月下旬も見学に訪れたという上越市の斉藤清司さん(67)が「昔の建物を生かしたレトロな感じがいい」と笑顔で眺めていた。
同社の石黒孝良営業部長(71)は「新たに何かを作ることは厳しい経営状況の中では難しい。今ある資源を活用した取り組みとして、二本木駅は象徴になっている」と話す。
観光路線化へ、トキ鉄はさらに手を打つ。駅そのものを観光名所にすることで、鉄道を利用する観光客をさらに増やそうと狙う。その中で「第二の二本木駅にしたい」と意欲を見せるのが、日本海ひすいラインの有間川駅(上越市)だ。
無人駅で、乗車人員は1日平均11人(2018年度実績)と少ないが、日本海を眺めることができる立地と静かな雰囲気を武器に、観光駅として売り出す考えだ。
今年7月には雪月花が運行3周年を記念して初めて同駅に停車する。石黒部長は「雪月花の停車を機に、より積極的に発信していきたい。全国的にも珍しいトンネル内に駅がある筒石駅(糸魚川市)など、魅力ある駅はたくさんある。各駅の良さを掘り出して観光につなげていきたい」と力を込める。
観光客を受け入れる土壌をつくり、地域全体の活性化へ貢献するため、トキ鉄にとって地域との連携も欠かせないものとなってきた。