沿線人口の減少などによって全国的に第三セクターの鉄道会社の経営が厳しいものとなっている中、各社は観光振興などを通じて沿線外からの誘客を図り、地域活性化にも貢献しようと奮闘している。えちごトキめき鉄道(上越市)の嶋津忠裕社長(74)と、並行在来線の経営を受け継いだ全国初の三セクの鉄道会社、しなの鉄道(長野県上田市)の玉木淳社長(48)=新潟市出身=に、現在抱える課題や将来的な地方鉄道のあり方について聞いた。
-厳しい経営が続いていますが、リゾート列車「雪月花」が好調です。
「沿線の人口は右肩下がりで宿命的に売り上げは伸びていかない。車社会も進行し、鉄道の出番はなくなってくる。そこで地方における鉄道の新しい役割を追求していくことが、地方の新しい可能性に転じていくきっかけになると思う。それが観光だ。もともとトキ鉄の路線は観光利用目的としてはインパクトがなかったので、強力な観光列車、雪月花が必要だった」
-雪月花の利用増に向けた方策を教えてください。
「マンネリ化させず、絶え間なく新しいことにチャレンジしていく必要がある。提供している食事はフレンチと和食の2種類だが、イタリアンを加えたり、現在の土日祝日だけではなく平日の運行もつくっていったりすることで、対応できる客のバリエーションが増える。外国人もさらにターゲットとし、全体のパイを増やしていきたい」
「雪月花では専属車掌が沿線の見どころなどを案内している。今は雪月花だけで観光客を引っ張っているが、一般の列車でも観光客を増やせるよう、運転士が見どころを紹介する、雪月花のような取り組みをできればと考えている」
-来年4月に運賃を3割程度値上げすると決めました。
「申し訳ないが、厳しい経営で値上げせざるを得ない。観光客の呼び込みによる定期外収入の増加に加え、遊休資産の活用やグッズ販売など、あらゆる手で売り上げを伸ばしていかないといけない」
-地域と連携して沿線を盛り上げています。
「車社会で新しい道路ができ、古い道路沿いのまちは廃れてきている。かつては駅前通りの商店街が地域の中心で、地域によって違う個性と良さがあった。地域の中には歴史や文化を後世に残そうと頑張っている人がたくさんいる。そういう人がいる間に一緒になってまちづくりをやっていけば、まち巡りをする観光客の誘客にもつながる。上越地域には高田の城下町など残っているものは多い」
-鉄道事業がまちづくりにつながっています。
「地方のまちづくりは、訪れてみたいと思わせることが最初にあり、次に深く知りたい、最後に住んでみたいと思わせることだ。最初のアピールはやはり観光で、それが地方鉄道の新たな可能性。人が来れば地方はにぎやかになっていく。本当の意味で、心がトキめく鉄道にしていきたい」
<しまづ・ただひろ> 1945年熊本県生まれ。慶大卒。71年に藤田観光入社。2003~09年まで肥薩おれんじ鉄道社長。10年11月から現職。9月で退任予定。
-2017年度決算まで13期連続で純損益が黒字となっています。
「開業した1997年度から赤字決算が続き、開業5年目で債務超過に陥ったが、長野県からの約103億円の公的支援や運賃の値上げなどで黒字となった。2017年度決算では約45億円の営業収益があり、そのうち旅客収入は約31億円。県内第一の都市の長野市と第三の都市の上田市を通っているのが大きい」
-現在の課題を教えてください。
「どこの地方もそうだが沿線人口の減少は避けられず、通勤・通学定期客の利用は減少傾向にある。しなの鉄道線の輸送人員は1998年の1224万人から2017年には約16%減った。このままだと今後の20年で年間約4億円の減収となる見込みだ。老朽化が進んだ車両の更新も控えており、全59両で約100億円の費用が必要になる」
-どう対策を取っていますか。
「大きいのは交流人口を増やすことだ。14年に運行を開始した観光列車『ろくもん』は年間1万2千人にご利用いただいている。利用客の78%が県外客で、観光施策としても優秀だ。ろくもんは今後も強化していかなければならない」
「軽井沢を訪れる人は年間840万人もいるが、調査の結果、しなの鉄道に乗ったことがある人は5%だった。すぐそこまで来ている方を引っ張り込む戦略を新たに打ち立てている。沿線には日本トップのワイナリーなど、素晴らしい魅力がたくさんある。沿線自治体が別々にPRをしても効果が薄いので、しなの鉄道経済圏で観光地づくりを推進する組織『DMO』をつくる動きが出てきている」
-地方鉄道のあり方についてどう考えますか。
「鉄道の存在によりまちができ、交流も盛んになる。地方鉄道は単独運営が難しいが、地域の支援によって成り立っている。だからこそ、鉄道会社として地域の発展のためにできることを全力でやっていかなければならない。地域の発展こそが鉄道の発展だ」
-しなの鉄道の新潟との関わりについての展望を。
「長野になくて新潟にあるもの、新潟になくて長野にあるものはたくさんある。それらを交換し合い、強みを磨いていくことで、より強い二つの県になる。過去に2回、ろくもんがトキ鉄に乗り入れたが、できれば直江津駅から信越線でつながっている新潟駅までの乗り入れもやってみたい」
<たまき・あつし> 1970年新潟市生まれ。新潟高、上智大卒。93年に現在の東京海上日動火災保険に入社。2016年4月にしなの鉄道に出向し、同年6月から現職。
<しなの鉄道> 北陸新幹線高崎-長野間の開業に伴い、JRから経営分離された並行在来線を引き継いで誕生した長野県などが出資する第三セクターの鉄道会社。本社は長野県上田市。1997年10月1日に開業し、旧信越線の軽井沢-篠ノ井間の65.1キロを「しなの鉄道線」として運営する。2015年3月14日からは同新幹線長野-金沢間の延伸開業に伴ってJRから旧信越線の長野-妙高高原間の37.3キロの経営を引き受け、「北しなの線」として運営している。
(この連載は上越支社・小出秀が担当しました)