第6弾 柏崎・出雲崎・刈羽

探る ひと集うまち 地域の宝磨く

新潟日報 2021/07/08

[1] 移住 柏崎・高柳町荻ノ島

共感者増やす交流重視 過疎進む農村 若者定着

 ウグイスの鳴き声が響く山あいで、青々と育った稲が風にそよぐ。田んぼの脇には、かやぶき屋根の建物が並ぶ。柏崎市街地から車で約40分。小高い丘の上にある高柳町荻ノ島集落には、日本の原風景が残る。

 人口約50人、高齢化率52%の集落に、若者の移住が相次いでいる。過去5年で20~40代の4人が定着。移住者同士で結婚し、子どもが生まれた世帯もある。

 大阪府出身の橋本和明さん(26)は、京都府立大4年の夏、中越防災安全推進機構(長岡市)のIターン促進事業「にいがたイナカレッジ」に参加、荻ノ島に1カ月滞在した。自給自足ができる環境や住民の人柄にひかれ、卒業後の2017年5月に移住した。

 稲作や新聞配達、かやぶき屋根の補修で生計を立てる傍ら、かやぶき屋根のカフェの開業準備を重ねる。地域活性化を担う住民組織「荻ノ島ふるさと村組合」の事務局長も務める。

 移住して5年目。「疎外感を感じたことはなく、地域の人には何だかんだ助けてもらっている。ちょっと放っておかれるくらいの距離感がちょうどいい」。居心地の良さを感じている。

集落のシンボル・かやぶき屋根の建物をバックに将来を語り合う春日俊雄さんと橋本和明さん(左)=柏崎市高柳町荻ノ島

 なぜ移住が相次ぐのか。ふるさと村組合長で町内会長の春日俊雄さん(70)は「8年前の方針転換が大きかった」と振り返る。

 荻ノ島集落は1993年、かやぶき屋根の宿泊施設を整備。人口減少が続く中で、観光交流に活路を見いだそうとした。

 観光コースの一つとなり、10年ほど前には大型バスが年間30台以上来たこともあった。住民は好奇の目にさらされ、カメラを構える観光客からポーズを注文された。「意外とかやぶきが少ないね」と心ない言葉も浴びた。滞在時間は短く、集落の宿に泊まる人も少なかった。地域は潤わなかった。

 「不特定多数を受け入れても、活性化にはつながらない。特定少数の人と互いに支え合える交流が大事と気付いた」と春日さん。宿が20周年を迎えた2013年、方向性を大転換した。

 柱の一つが、外部と連携した定住促進だ。14年からイナカレッジでインターン生を募集。これまでに10人ほどを受け入れ、橋本さんを含む2人が定住した。

 移住者の4人は、お盆行事、秋祭りなどの運営役員を務める。荻ノ島にUターンした同世代ら若者の行事参加が以前よりも増えた。

 「集落のみんなが、若い人たちと一緒に暮らす幸せを感じている」。春日さんはしみじみ語る。

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 人口81,000人の柏崎市は、年間千人前後のペースで人口減が進む。市は人口減対策を最重要課題に掲げ、移住促進に力を入れる。

 ターゲットは若者層だ。現在はオンラインでの移住相談会が中心だが、目に見える成果はまだない。市元気発信課は「全国で移住者の取り合いになっている。特効薬はない」とする。

 次の一手をどう打つのか。若者の価値観も多様化している。

 橋本さんは「『家』の概念や定義も変わってきている。僕は荻ノ島が拠点なだけ。同年代の友達とはSNSでつながっているから、寂しくはない」と、あっけらかんと話す。

 多様な価値観を持つ移住者を受け入れ、彼らが地域の実態を本音で情報発信し、さらに関心の輪が広がる-。荻ノ島ではこうした好循環が生まれつつある。

 「人口ではなく、共感者を増やす。量より質が大事ではないか」。春日さんは実感を込めて語った。

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