[未来のチカラ in 県央]
ものづくりの現場で立ち止まることは、後れを取ることとイコールだ。日進月歩の技術革新をリードする決意、伝統だけにとらわれないアイデア、そして実行力。県央のものづくりの軌跡は、挑戦の軌跡とも重なる。「いどむ」。その先に未来がある。
「
「ロケットもやって、飛行機もやって。『まさに、下町ロケットだよね』とよく言われます」。田上町に工場がある山之内製作所(横浜市)の社長の山内慶次郎さん(62)は笑みを浮かべる。掲げるのは「世界ナンバー1企業への挑戦」だ。
「ザ・町工場」という雰囲気の山之内製作所田上工場。大手に負けない最新設備も導入されている=田上町
資本金3200万円、従業員150人の中小企業(ちなみに佃製作所は、資本金3000万円、従業員200人の設定)。手掛けるのは人工衛星や航空機エンジンなどの高度で超精密な部品だ。さまざまな素材を切削し生み出した部品が空で、宇宙で活躍する。
1964年、山内さんの父が横浜市で創業した。父は栃尾出身。田上で暮らす親戚らの縁で県央地域から多くの若者を人材として採用した。72年には田上に拠点工場を建設。山内さんは「先代はものづくりの人材がいるから、ここに進出した。新潟の人は真面目で粘り強く、諦めない。気質は最高だ」とたたえる。
東芝の下請けとして試作品を作る町工場からスタートし、今や三菱重工、川崎重工、IHIなど大手企業と取引をする。
衛星分野に進出したのは四半世紀ほど前。開発と研究に費やした最初の5年ほどは利益なし。そんなリスクを負いながら、最先端の技術を追求してきた。アンテナやアームなど、得意とするのは稼働する部品。「『これは、山之内さんしか作れないですよね』と言われる技術を目指してきた」
そんな挑戦の日々は、日本で作られる人工衛星全てに自社製の部品が使われる信頼を生んだ。小惑星「りゅうぐう」の砂を地球に持ち帰った探査機「はやぶさ2」には、数千点の部品を納入したという。
世紀の偉業の一端を支えた技術-。「衛星の部品は丈夫で薄くて軽いものを求められる。はやぶさ2の偉業に感動するより、納期にあおられ苦労した思い出の方が大きいですね」と、山内さんは笑う。
今、目指している一つが化石燃料を使わずクリーンな水素エンジンによる発電だ。田上・県央から、空へ、宇宙へ、そして未来へ。町工場の挑戦が続く。
大手メーカーの認証を取った技術者が仕上げを担う
全国の生産シェア7割を占めるという加茂の桐たんす。江戸時代後期から続く産地で、1976年には伝統的工芸品に指定された。73年に創業したイシモク(加茂市加茂新田)は産地の中では比較的「若い」メーカー。桐たんす市場が縮小する中、伝統の技に新しいアイデアと技術を融合させ、桐のダイニングテーブルや椅子、スピーカー、まな板などを手掛けた。
優しさをテーマに機能とデザイン性にこだわったイシモクの家具=加茂市加茂新田
斬新さを生むのは「偶然のアイデア」と社長の山口智子さん(67)は笑う。ピンチをチャンスに変え、新たなジャンルに挑み続ける。
桐たんす以外の商品を生産するきっかけは、93年の工場の移転新築だ。建設の途中に床の予算が足りなくなったため、安く仕入れた桐を張ることに。すると、工場で働く職人らが思わぬ効果を感じた。冬でも冷えない断熱効果が分かったのだ。「桐は建材に向かない」という業界の常識にとらわれず、桐の床材を売り出した。
その後、家具の開発を始め試行錯誤を重ねたが、最初に作った座卓は天板が厚くなり不格好。納得できる商品完成までに2年をかけた。これらの経験が「使う人の目線で作る」という社の方針の基礎となった。
工場では職人7人が腕を振るう。田村ゆかさん(42)は「桐の軽さを生かし、気軽に使える家具を考案したい」と意欲をみせる。高度な技術が必要となる注文品にはベテランの技も光る。他社で桐たんすを約40年作った住安浩さん(59)は「技術を生かす機会が多いと思い転職した。ここは最後の挑戦の場」と語る。
18年前には、加工プログラムを入力すると複雑な曲線やくりぬきができるNC工作機械を導入。手作業では表現できない独創的なデザインが可能になり、商品のコストダウンにもなった。
現在、住宅のほか県内外の店舗や子ども園の内装と家具を含む空間全体のプロデュースも手掛ける。山口さんは「日本が古くから大事にしてきた桐の文化を未来に残したい。そのために多くの人に手にしてもらえる製品を届けていきたい」と力を込めた。
シャキシャキした歯応えの田上町特産のタケノコや野菜がたっぷり入っている。汁をすするとしょうゆベースの優しい味わい。同町の酒・食料品店「藤次郎」の缶詰「たけのこ汁」は、地元の魅力を詰め込んだ一品だ。
郷土愛あふれる「たけのこ汁」。パッケージは藤田さんの家族でデザインした
「田上らしい商品を作りたい」。タケノコは特産品でありながら町に関連商品が少ないと感じていた、専務の藤田哲也さん(47)が考案した。「どこをすくってもタケノコが出てくるでしょ」と自慢する。
タケノコが収穫できる4、5月に、1年分を生産する。掘ったその日に水煮にしてから加工するため、えぐみが少なく新鮮な状態で味わえる。町産・県産の豚肉や車
藤田さんは「そのまま食べてもいいし、豆腐を入れるのもお勧め。県外に出た人が、缶詰で田上を思い出してくれたらいいね」とほほ笑んだ。
他に、タケノコのアヒージョやトマト煮、カレーの缶詰もある。
■藤次郎 住所:南蒲原郡田上町原ケ崎新田1809 電話:0256-57-2043
香ばしくカリッとした皮で、中にはしっとりしたこしあんがぎっしり。口に入れると、上品な甘みが広がる。加茂市を中心に4店舗を構える和洋菓子店「京家」の「かりんとう
人気商品「鬼の金棒」。黒光りした見た目と表面の硬さから名付けられた
鬼の金棒は、2008年に開発された同店の看板商品。東京・表参道の新潟館ネスパスでも、7年連続(11~17年)で年間売り上げが2位になるなど人気だ。
「あんのジューシーさと皮の硬さを両立させているのがよそとは違う」。社長の中林健さん(53)は胸を張る。蒸したまんじゅうを3日ほど扇風機に当て、表面を乾燥させてから揚げることで、あんの水分が皮に移る影響を抑えた。素材にもこだわり、沖縄産黒糖や北海道産小豆を使用。現在も、生地や油など日々改良を重ねている。中林さんは「京家の名を広めてくれたかけがえのない品。よりおいしくなるよう研究していきたい」と笑顔で語った。
■京家加茂駅前本店 住所:加茂市駅前1-6 電話:0256-52-6080