人が歩き、車が走り、時にはサルやキジが横切る。道はそれぞれ地域の有様を映し出す。「未来のチカラ in 県北」の舞台となる新発田、村上、胎内、聖籠、関川、粟島浦。山、川、海と豊かな自然はもちろん、県内有数の工場地帯、そして歴史を積み重ねた街並みがある。「道たどって」と題して、6市町村の「道」を歩き、地域のいま、未来を見つめる。
城下町として栄えた村上市はかつて「武家町」と「町人町」に分かれていた。武家屋敷と町屋造りの建築様式の違いとともに特徴的なのが隣家との境界線だ。武家町は生け垣で区切るのに対し、町人町は板塀だ。
「
<村上市>
人口 5万8570人(2020年9月1日現在)
世帯数 2万2679世帯(同)
面積 約1174平方キロメートル
市の木 ブナ
市の花 ハマナス
周辺住民が一丸となって復活させた黒塀が連なる「安善小路」=村上市
小路には
小路を抜けると三面川方面から上る緩やかな「親不孝坂」にたどり着く。坂を上ると花街があったため、この道を行くのは道楽息子だということで名付けられたという。一方で道中には寺院もあるため、先祖参りをする孝行息子が通る道だとし、正反対の「親孝行坂」との異名もある。
こうした城下町を象徴する景観は一度は失われた。高度成長期に一帯の塀はブロックに変わり、電柱が立った。
景観復活の転機は、地元店主や住民が酒の席で話し合ったことだった。「この小路が昔ながらの黒塀になったら、村上を代表する素晴らしい場所になるのではないか」。2002年、黒塀を復活させる市民プロジェクトが始まった。
元々あったブロック塀を板で覆って黒いペンキを塗る。全ての工程をボランティアが行い、活動資金は寄付を募った。黒塀の通りが再生されるにつれ、地域住民の意識も高まった。05年には小路の全世帯が「景観に関する住民協定」を結び、景観を乱す建物を造らないことを確認した。
取り組みは対外的にも評価され、国土交通省の「手づくり郷土賞」など数々の賞を受けた。市民主体の町おこしは注目を集め、新発田や新潟からの視察が相次ぐまでに至っている。
安善小路から少し足を伸ばすと、村上大祭でおしゃぎりが巡行する小町、上町、大町がある。
ブロック塀に、黒くペンキを塗った板を1枚1枚張る市民=2002年、村上市
安善小路にあり、創業153年を迎える村上市小町の割烹「
都内の短大を卒業後、24歳で新多久の跡取り息子だった博さんと結婚した。「若い頃は新潟、東京に目が向き、村上は『背中』だったけど」と語りつつ「好きになった人が老舗割烹の跡取りだったのだからしょうがないじゃない」と笑う。
結婚の2年後には義母が亡くなり、おかみの大役が回ってきた。「村上ではおかみを『あねさま』と呼ぶ。新多久のあねさまがこれではいけない」。新潟市の料亭の門をたたき、おかみ修行に励んだ。
押しも押されもせぬ「あねさま」になっていた2005年、新多久は火災に見舞われ全焼した。さらに08年には博さんが脳出血で亡くなった。度重なる悲運の中、店の再建に尽力してくれた人の顔が浮かんだ。「人々の心意気、村上の伝統を後世にも伝えなければ」。黒塀プロジェクトや町屋再生プロジェクトなど、夫が始めた活動を継ぐ決意を固めた。
活動は軌道に乗り、街の姿は一変した。黒塀は広がり、商店や住宅に町屋のたたずまいがよみがえった。鮭の恵みに感謝する伝統行事も次々と復活させた。
「未来の担い手を育てることが今一番の仕事」と語る山貝さんには夢がある。毎年10月に安善小路を中心に開催する竹灯籠祭りを市内に広げることだ。「村上駅から小町までを竹灯籠の灯で包んだらすてきでしょ」と目を輝かせる。
今年は新型コロナウイルスの影響で10月10日の午後6時からオンラインで開催する。「今年ならではの光景を楽んでほしい」。3日後に迫った祭りの成功に向けて準備を進めている。
割烹「新多久」の大おかみとして村上の観光振興に尽力している山貝世津子さん=村上市
江戸中期創業で村上市有数の歴史を誇る「九重園」は、茶のおいしさはもちろん、歴史を感じる町屋造りの店構えも魅力的で、観光客を楽しませる。
9代目社長の瀧波匡子さん(64)によると、元は醸造業を営んでいたが村上藩主内藤家から茶作りを命じられ、徳川将軍家の御用達だった京都の茶職人柳田九平衛から技術を学んだという。その名残で今も宇治茶をブレンドして販売している。
柳田から名を取った喫茶スペース「九平衛庵」では、歴史があるびょうぶや茶道具を眺めながら抹茶と和菓子のセットや村上茶を使ったソフトクリームなどが堪能できる。運が良ければ看板犬でプードルのプーちゃんも出迎えてくれる。
元日のみ休み。8:30~17:30。
電話は0254-52-2036。
町屋造りの店内でお茶やお菓子を楽しめる「九重園」=村上市
2017年、JR村上駅にほど近い山居町に「カフェ&ダイニング デイズ」がオープンした。
村上市朝日地区の「鈴木豆腐店」の娘でもある鈴木いづみ代表(41)が「豆腐をおいしく食べてもらうために作った」という、半丁丸ごと煮込んだマーボー豆腐が人気を集める。人の顔をイメージした「恋するガレット」は、地元野菜に県産シーフードをふんだんに盛り付けた。恋人や友人と分け合って食べても十分なボリュームだ。
「いい意味で村上らしくないカフェを作りたかった」と鈴木さん。米西海岸を
火曜定休。ランチは11:00~15:00。ディナーは現在予約があれば開く。
電話は0254-57-1032。
一番人気の「半丁丸ごと麻婆」と「恋するガレット」=村上市