村を流れる清流荒川のせせらぎが耳に心地よい。かつては宿場町だった静かな通りを歩けば、国の重要文化財「渡邉邸」をはじめとした古い町並みが残る。飯豊、朝日連峰に囲まれた関川村は、県北でも有数の豪雪地であり、大きな水害にも見舞われてきた。そんな厳しい環境の中でも、地域住民は道を切り開き、花を植え、地域を守ってきた。「歴史と自然」。当たり前にそこにある財産が、村に恩恵をもたらし続ける。
<関川村>
人口 5260人(2020年9月1日現在)
世帯数 1904世帯(同)
面積 299.61平方キロメートル
村の木 モミジ
村の花 ユリ
新潟市から関川村を通り福島県相馬市へとつながる国道113号。村の区間は一日平均6800台が通過する=関川村
関川村の中心部を貫き山形、福島県へと通じる国道113号は、荒川沿いに
沿線の下関、上関には道の駅関川(桂の関)がある。敷地内にある温泉施設「ゆ~む」や、猫ちぐらを作る様子を見学できる「にゃ~む」、屋内トレーニング施設「ど~む」は人気の観光スポットだ。物流ルートでもあるため、県外トラックのドライバーにとって憩いの場にもなっている。
東北と新潟をつなぐ「命の道」の役割も果たした。2011年の東日本大震災では、仙台市などからの被災者が避難。多くの高速道路が通行止めになる中、支援物資を載せたトラックが昼夜を問わず被災地に向かった。
国道113号の開通以前は、越後米沢街道が新発田藩、村上藩と米沢藩をつなぐ道だった。約70キロの街道には宿場町が栄え、村には今も「上関」「沼」などの集落が残る。米やたばこ、鉱物などが行き交い、荒川の水運とともに日本海側と太平洋側を結ぶ重要な役割を果たした。
ただ、その道は険しい。関川から米沢に抜ける街道の途中には13の峠が連なることから、越後米沢街道は「十三峠」との異名も持つほどだ。
峠越えの街道から役目を引き継いだ国道113号だが、昔から変わらない課題も抱える。山の合間を縫っての県境を通過するため、落石などの被害を受けやすく、急カーブが続く部分は事故が多いことだ。豪雪地のため雪害もある。
そこで建設が進められているのが日本海東北道荒川胎内インターチェンジ(IC)と、東北中央道南陽高畠IC間の約80キロを結ぶ地域高規格道路の「新潟山形南部連絡道路(新山道)」だ。関川村を含む村上・岩船地域にとって、連携する山形県の置賜地域と共に観光客誘致の大きな弾みとなる。
村の活性化への期待は大きい。上関の酒販店で働く傍ら、地域おこし活動に取り組む五十嵐紀人さん(31)は「今アウトドアブームだが、山登り、キャンプなど自然豊かな関川村には魅力がたくさんある」と太鼓判を押す。今後については「村上、胎内などと周遊できるプランを有志で考えている。新山道ができれば山形との距離もぐっと近くなるので、観光にもいい影響が出てほしい」と語った。
越後米沢街道、国道113号、新潟山形南部連絡道路。道の名前やその風景は変わっても、地域の動脈として村と東北を結び続ける。
越後米沢街道十三峠の新潟側の起点に当たる鷹の巣峠=関川村
荒川沿いを桜でいっぱいにして村の活性化につなげたい-。夢の実現に向けて1987年に「荒川筋さくらの会」を発足させた。植栽した桜は大きく育ち、今では村を代表する春の観光スポットだ。「私は関川の花咲かじいさんだなぁ」と笑う。
故郷を桜でいっぱいにしようと活動を続けてきた平田時夫さん=関川村
きっかけは子どもの頃に見に行った加治川の桜並木だった。「戦後で娯楽がない時によく遊びに行った。1967年の羽越水害後にきれいに整備された荒川にも同じ景色を再現したかった」と話す。
計画は荒川の堤防沿い約35キロに1万本の桜を植樹するもの。会員は年2000円の会費を5年間支払って桜の木の「オーナー」となる。村の建設会社の営業マンだったことから、河川を管轄する建設省(現国土交通省)の出先機関にもよく出入りをしていた。所長に構想を伝えると、とんとん拍子に話が進んだ。
順調に進み出したように思われた頃、問題が起きた。植えた木の3分の1が枯れてしまったのだ。原因は植樹を会員自身で行ったため、植え方がまちまちだったこと。根付きが悪く、十分なケアもできなかった。「総会で報告したらみんなからこっぴどくしかられてね」と当時を思い返す。
この一件で、植樹はプロに任せることになった。資金集めのため新規会員の開拓と行政の支援を求めて奔走した。新聞に取り上げられたことも功を奏し、関川支部の会員は444人、法人50団体にまで増えた。
昭和の終わりに植えた桜は平成、令和と時代を経た今でも村内外の人々に愛されている。ただ、植樹の経緯を知らない世代も増えており、来年にはこれまでの活動をまとめた冊子を作る予定だ。「市民主導で成し遂げた大きな事業だった。これからも残していってほしい」。次世代への大きな財産となった木々を眺めながらつぶやいた。
関川村役場の正面に国指定重要文化財「渡邉邸」がある。しっくいと黒塀で囲まれた約500坪の邸宅は趣あるたたずまいで、豪農として名をはせた、往時の渡邉家の繁栄がしのばれる。
現在の屋敷は火災によって1817年に再建された。二度と火災に遭わないよう願いを込めて、母屋の至る所に「水神」をモチーフにした意匠がある。大きな屋敷には珍しい板
書院造りの大座敷から眺める庭は四季折々の魅力にあふれ、屋敷とともに職人の高い技術や粋を感じられる。
入館料は大人600円、小中学生250円。9:00~16:00(12月29日~1月3日は休館)。問い合わせは渡辺家保存会、0254-64-1002。
建築された200年前の姿を保っている渡邉邸=関川村
国道113号から大石川上流方向に車で約10分。1967年8月28日に発生した羽越水害をきっかけに造られた大石ダムの付近には「大石ダム湖畔県民休養地」がある。これからの紅葉シーズンは、鮮やかに色付いた山の木々を望める。
休養地内の小動物園には馬や鹿、ヤギのほか、烏骨鶏(ウコッケイ)やリスなど約10種の動物を観察できる。ポニーやヤギには餌付け体験ができるほか、かわいらしいウサギと触れ合えるコーナーもある。
周辺にはアスレチック広場や、ゴーカートなどもあり、家族連れで楽しめるスポットが多い。
小動物園は入場無料。9:00~17:00(12~3月は休園)。問い合わせは同園、0254-64-2896。
大石ダム湖畔県民休養地内の小動物園=関川村