内陸側にサクランボやブドウといった果樹園が広がり、対照的に日本海側の新潟東港周辺には工場が立ち並ぶ聖籠町。アルビレックス新潟の練習場や日本で唯一のサッカー専門学校もあるなど多彩な顔を持つ町は、全国的に社会問題となっている人口減少を食い止め、増加傾向を維持してきた。県都・新潟市などとのアクセスの良さを武器に発展を遂げた流れを、どう次代につなぐか。住民は動き出している。
<聖籠町>
人口 1万4255人(2020年10月末現在)
世帯数 4913世帯(同)
面積 37.58平方キロメートル
町の木 クロマツ
町の花 ハマナス
聖籠町から新潟市方面へ延びる新新バイパス。人と物の活発な流れを生み出し、町の発展を支えている=聖籠町
聖籠町へ、そして新潟市方面へ、南北それぞれに向かう車がずらりと列をなす。聖籠町蓮野の新新バイパスの蓮野インターチェンジ(IC)で見られる朝の光景だ。新潟市中心部と町を車で約30分で結ぶ大動脈。「人口が増えたのは、新新バイパスができたのが大きかった」と町民は声をそろえる。
平成が始まった1989年、新潟市と新発田市とをつなぐ新新バイパスが開通した。両市に接する町に恩恵は大きく、それに前後して町内の新潟東港工業団地には食品製造業、運送業などの多くの企業が進出、操業を開始した。すると工業団地に隣接する蓮野ICは混雑するようになり、人の流れに合わせて大型商業施設も開業した。
1994年、蓮野IC付近に大型商業施設が開業すると、買い物客らが行列を作った=聖籠町
企業進出で雇用が充実すると、町は宅地造成を行った。70年代後半から1万2千人台が続いていた人口は、90年代半ばから加速度的に増え、97年に1万3千人、2015年には1万4千人に到達。世帯数もこの10年で約750世帯増えた。
19年に町と県が町内の転入・転居者に行ったアンケートでは、町を選んだ理由に「仕事・通勤に都合がいい」が、地縁血縁関係の次に挙がり、アクセスの良さが人口増に寄与したといえる。
バイパスができる前、周辺はナシの果樹畑が広がり、工業団地はサツマイモやスイカの畑だった。ブドウ農家を営む元町議の小林政榮さん(76)は「子どものころのイメージとはすっかり変わった。バイパスができて町は発展した」と語る。
ただ今後、人口減少は避けられない。町が子育て政策のさらなる充実などで魅力アップを図る一方で、町民も動き出している。
蓮潟地区では、農家らを中心とした地域団体「蓮潟環境保全チーム」が、国の制度を活用して沿道にシバザクラを植栽したり、ごみ拾いをしたりと積極的に地域貢献活動を行う。老人クラブや子供会もメンバーで、地元に伝わる町無形文化財「蓮潟神楽」の伝承や、地区内にある聖籠中学校の生徒と卒業記念樹を植えるなど活動の幅は広い。
「世帯、年齢を超えてコミュニケーションができるようになり、地区がまとまった」。代表の曽根昭幸さん(74)はチーム発足後の効果を強調する。
町外でも講演や研修を行い、存在をアピールする。「蓮潟の名前が売れることで聖籠町も知名度が上がる。町も税収入が減ったが、停滞しては駄目。いろいろな発想で、子どもたちが住んで良かったという町にしたい」と意気込む。
充実した交通網を土台に進んだ開発は、町を豊かにした。しかし、その魅力を発信していく土台は、そこに住む人たちにある。
米ニューヨークからUターンで地元に戻り、家業の農業を継いだ。「研究して勉強して、ぶれずにやってきた」と真っ正面から向き合った10年を振り返る。現在も皮ごと食べられる種なしブドウの新品種栽培に力を入れる。「この町のアイデンティティーは果樹」と言い切り、さらなる発展に尽力している。
就農して10年で、ブドウ園の広さを3倍に広げた伊藤光洋さん。「幅広い年齢層が来てくれるようになった」と語る=聖籠町
その半生は刺激に満ちてきた。新新バイパス沿いに観光農園が広がる町で、コメと果樹の農家の長男として育った。東京の音楽系の専門学校を経て、クラブDJを目指して渡米。語学学校に通いながら音楽活動に励んだ。
その後、大学でシステム開発を学び、教員として短大で授業を持つまでに。ウェブデザインなどを手掛ける事務所も仲間と立ち上げ、昼間は仕事、夜はDJ活動をこなした。計12年の米国生活は刺激的で、「忙しいけれどみんなが楽しんでいた」と笑う。
ただ、妻と知り合い、子育てを意識した時、「情報化が進み、ここにいなければいけない理由がない」と決心し、2011年に地元に戻った。
ブドウ園を任され、品質向上やブランディングに力を注ぐ一方で、町内の果樹農家の減少に危機感を抱いた。「若い人が新しく就農する場所をつくろう」と15年、同年代の果樹生産者2人と任意農事組織「セイロウフルーツヴィレッジ」を立ち上げた。
遊休農地などを活用し、新規就農者の受け皿となる役割を担う。省力で生産性が高まる「ジョイント栽培」と呼ばれる栽培法を取り入れるなど技術力アップにも積極的に取り組む。「データを開示している。やりたい人は遊びに来てほしい」と呼び掛ける。
町の総合戦略推進会議の会長代理を務め、町への提言も積極的に行う。それも5歳になる双子の息子ら、未来を担う子どもたちに「果樹の里」をうたう町の景色を残すためだ。
「果樹をしっかりと産業化できれば子どもも孫も続けられる。当たり前にあるものを守りたい」。言葉には覚悟と決意がにじんでいた。
聖籠町役場のほど近く。外観は欧州風のたたずまいで、中に入ると昔懐かしい喫茶店のような雰囲気が漂う。まきストーブのある店内にはテーブルとカウンター席のほか、小さい子も安心な小上がり席もあり、老若男女が訪れる。
店長の羽田野壽美江さん(64)が「子どもと一緒に行けるお店がない」と話す娘の可南子さん(36)の言葉で一念発起し、2014年に開業した。庭にもこだわり、5月には自慢のバラが見頃を迎える。
人気メニューはハンバーグやグラタンのランチプレート。手作りケーキもおすすめだ。おむつを交換できるスペースがあるトイレは、車いすも入れる。羽田野さんは「年代問わず、ほっとできる空間をつくっていきたい」とほほ笑む。
月、第2日曜定休。8:30~17:30。電話は0254-20-7788。
温かい雰囲気を醸し出し、子連れらに人気のぽかぽカフェ=聖籠町
新新バイパス蓮野インターチェンジから車で約3分の距離にある町内最大規模の公園。春はサクラ、夏はハスが咲き、冬には白鳥が飛来するなど、四季を通じて楽しめる。
弁天潟は南北約160メートル、東西約230メートルの大きさ。新発田藩が1726年、当時付近を流れていた加治川で、蛇行部分を替える「瀬替え」を行った際にできたとされる。
自然や植物を楽しめるだけでなく、園内には複合遊具や夏場に水遊びができる水路があり、近隣の新発田市や新潟市からも子連れの家族が訪れる。町の担当者は「これからも若い世代が楽しめる公園を目指したい」と話している。
問い合わせは町ふるさと整備課、0254-27-2111。
四季を感じながら遊ぶことができる弁天潟風致公園=聖籠町