第4弾 県北

6市町村 道たどって

新潟日報 2020/10/14

<2> 胎内 観光名所と自然 満載

県道53号 既存の資源 磨き上げる住民

 県北の中央を東西にまたがる胎内市は、県内でも有数の自然に恵まれた土地だ。東には飯豊連峰、西には日本海が広がり、市の中心を流れる胎内川がつなぐ。2005年に中条町と黒川村が合併して15年。「自然がきる、人が輝く、交流のまち」を目指す市にとって、鍵を握る道がある。

<胎内市>
人口  2万8581人(2020年9月30日現在)
世帯数 1万809世帯(同)
面積  約265平方キロメートル
市の木 マツ・ヤマボウシ
市の花 チューリップ

奥胎内への玄関口となる熱田坂地区を走る県道53号。先には胎内スキー場、飯豊連峰が見える=胎内市

 飯豊連峰を望む胎内市の旧黒川村地域。緩やかな傾斜に広がる田園や高原の中を、胎内二王子公園羽黒線(県道53号)は清流・胎内川に沿うように延びる。全長約25キロ。自然豊かな奥胎内から景勝地の樽ケ橋エリアまで、観光スポットをつないでいる。

 いまでは舗装されたこの道は多くの犠牲の下にできあがった。1967年、黒川村を豪雨が襲った。村内で31人の死者を出した羽越水害。道路や農地が崩壊し、甚大な被害を受けた。ただ、当時の伊藤孝二郎村長は「災い転じて福となす」を合言葉に復興を推し進めた。

 整備された道路は村民の生活を便利にしただけでなく、観光立村を掲げる村の動脈となった。冬場の出稼ぎ解消を目的に、65年に村が開設した胎内スキー場はスキーヤーであふれた。目の前を走る県道53号は車が列をなし、普段は10分で着く距離が、週末は2時間掛かるようになった。

 ホテル、スポーツ施設、レジャー施設…。県道53号周辺の「胎内リゾートエリア」には次々と観光拠点が建設された。元役場職員の中村昇三さん(72)は「役場には『黒川村』ではなく、『胎内』はどこですかという問い合わせがよくあった」と振り返る。全国から人の往来を生み、冬場は人影もまばらだった村の繁栄を支えた。

 しかし時代の波が押し寄せる。全国的にスキー人口が減少するなど、求められる観光は変化した。

 地域経済活性化や郷土への誇りを育むために観光を重要視する市は、足元を見つめ直す。観光振興のコンセプトは「どこにでもある田舎から、何度も訪れたくなるふる里に」。地域住民と観光客の交流を通して、関係人口を増やす狙いだ。

 地域文化や自然を売りにしていくためには、そこで暮らす住民の参加が欠かせない。開設から55年となる胎内スキー場は、新型コロナウイルスの影響などで1度は今季の休止が判断された。だが、クラウドファンディングを実施すると、住民らから2000万円以上が集まり、オープンする方針となった。地元スキークラブの監督、佐藤和広さん(50)は「夏場の利用など、自分たちでも動いていかないといけない」と思案する。

 住民と観光施設をつなぎ、資源の発掘などを担う若者も出てきた。「観光振興推進サポーター」に4月に就任した神田圭奈さん(24)=埼玉県出身=は「地域の人を主役にして、山の暮らしに興味がある若者を増やしたい」と話す。

 生き生きと暮らす住民と観光施設がそろう県道53号周辺は、市の未来を切り開く道しるべとなる。

羽越水害で被害を受けた胎内川橋左岸の県道53号=1967年(8・28水害の記録「土石流」より)

飯豊連峰や奥胎内の魅力を引き出す

飯豊・胎内の会会長 亀山東剛さん(77) 登頂400回救助や整備も

 飯豊の魅力を「山に深さがある」と独特な表現を用いる。初登頂から60年。毎年飯豊連峰の尾根に立ち、7月に400回に到達した。登るたびに新しい発見があるという。「取り込まれると出られなくなる。禁断の果実だね」。日に焼けた笑顔で、生き生きと語る。

 中条高3年の1960年、友人と同好会をつくり、地元山岳会メンバーと初めて登った。しかし当時、胎内側は入り口となる奥胎内への車道も、登山道もなく、入山は山形県側から。下山はやぶをかき分けて胎内側へとたどり着いた。

 ダムや発電所の建設、64年の新潟国体山岳競技開催に伴って道路開発などが進み、65年に奥胎内を基点とする「足の松尾根登山口」コースが完成した。

 「飯豊連峰は3、4泊が常識だったが、日帰りさえできるようになった」。便利さが加わったことで登山者の人気を博した。その人気は、黒川村が車道を頼母木山の頂上へ延ばす「飯豊スカイライン」構想を打ち出し、一時は期成同盟が発足するほどだった。

 標高2000メートルを涼しい顔で登る健脚。「百名山などには興味がない」と言い、地元企業で働きながら、仲間や妻と飯豊に登り続けた。合併で胎内市が誕生し、市からの委託で山小屋管理に関わるようになると、ますます深い関係に。2011年からは「飯豊・胎内の会」メンバーとして小屋の維持・運営、登山道の修繕、遭難者の救助などを担う。

 18年に会長に就き、「大工や写真家ら個性豊かなプロ集団」をまとめる。活動の幅は広く、貴重な巨樹や珍しい景色が残る奥胎内の自然を楽しむ散策ルートの整備などに携わり、観光活性化にも貢献している。

 自宅の玄関には愛用のザックが常に置いてあり、「水とおにぎりを入れればいつでも行ける」状態にしている。「健康に恵まれた。母ちゃんのおかげ」。妻への感謝を忘れず、きょうも山へと入っていく。

「奥胎内の自然は先人が残してくれた財産」と語る亀山東剛さん=胎内市

スポット紹介

<ししのくらの森> 圧巻 国内最大級のブナ

 胎内スキー場から奥胎内ヒュッテ方面へ県道53号を行くと、風倉トンネル手前に「ししのくらの森」と書かれた看板が立っている。国内最大級のブナの異形樹が見られる場所だ。

 最大の巨木は入り口から15分ほどの場所にそびえ立つ。樹齢は約300年とみられ、幹回りは最大で約10メートル、高さは20メートルを超える。巨木は計4本。約30分あれば見て回ることができる。

 2018年、市が地元山岳会「飯豊・胎内の会」の協力を得て、一般公開を始めた。今年、案内看板や周遊道を整備し、ヤマビル対策のスプレーも設置。紅葉シーズンは10月下旬で、市の担当者は「奥胎内ならではの自然を満喫してほしい」としている。

 問い合わせは市商工観光課、0254-43-6111。

胎内二王子県立自然公園内の「ししのくらの森」にあるブナの異形樹。高さは20メートルを超える=胎内市

<ロイヤル胎内パークホテル> 爽快 豪華キャンプ体験

 2001年の開業から20年目を迎えたロイヤル胎内パークホテルは、敷地内の芝生広場に設置したグランピング施設の利用を今月中旬から始める。昨冬からキャンプ宿泊も行い、新たな魅力の発信に力を入れている。

 「スイートルームを屋外で体験できる」というグランピングは、ベッドなどを設置した常設テントに宿泊し、食事も特別メニューを外で味わえる。

 キャンプ宿泊者も含め、ホテル内の温泉、トイレなどを利用できる。特に3月に改装した展望露天風呂は、星を見ながら温泉につかれる自慢の施設だ。

 同ホテルの中村旬営業企画課長(36)は「胎内市特産の米粉の料理や周辺の屋外アクティビティーなど、いろいろと楽しんでほしい」と話した。

 電話は0254-48-2211。

ロイヤル胎内パークホテルのグランピング施設。手軽に豪華なキャンプが体験できる=胎内市(同ホテル提供)

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