第2弾 魚沼

魚沼 酒人考

 雪解け水が大地に染み渡り、軽くなめらかな淡麗辛口の酒を生む。雪国魚沼の豊かな自然は、味わい深い酒や食を育んできた。「美酒美味 雪国にあり」とうたい9月22日、JR浦佐駅で開かれる「米と酒 魚沼の陣」。出店する酒蔵にまつわる歴史や酒を醸す人の思い、魚沼らしい食を生んだ物語を記す。

新潟日報 2019/09/11

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<1> 青木酒造(南魚沼市)
青木 貴史社長(46)

牧之ゆかり 宿場町の蔵元 地元支える恩返しも

 主力銘柄「鶴齢」の名は「北越雪譜」を著した江戸時代の文人、鈴木牧之が命名したといわれる。南魚沼市で宿場町の風情を模した「牧之通り」の一角にある青木酒造は、魚沼地域でも有数の歴史を持つ蔵だ。

「地元に愛されてこその酒蔵だから、地元を応援したい」と語る青木貴史社長=南魚沼市塩沢

「地元に愛されてこその酒蔵だから、地元を応援したい」と語る青木貴史社長=南魚沼市塩沢

 北越雪譜は雪国越後の暮らしを紹介した、江戸時代のベストセラー。この中に「異獣」という章がある。異獣は山中に突如現れ、旅人から握り飯をもらい、そのお礼に、荷物を担ぎ、山中を道案内する。

 もう一つの主力銘柄「雪男」は、このエピソードにちなむ。

 雪男の売り上げの一部は、地元山岳遭難救助隊の活動資金として寄付する。また地元出身で、2014年ソチ冬季五輪、スキーハーフパイプ銅メダリスト小野塚彩那選手が、無名だったころから活動資金の一部も支えてきた。

 「地元に愛されてこその酒蔵。地元の活動を支えるのは、ささやかな恩返しです」と青木貴史社長(46)は語る。酒蔵の店内には、小野塚選手が愛用するスキーメーカーの特別製の板が飾られ、表面に描かれた雪男のマークが誇らしげに見える。

 社是は「和合」。酒の造り手、売り手、飲み手の皆が幸せになれるようにとの思いを込めた。「北越雪譜」に描かれた、越後の人が助け合う姿を地で行く。

青木酒造の主な銘柄

青木酒造の主な銘柄

 「淡麗辛口」がそろう魚沼の地酒だが、青木社長は自社の味を「淡麗旨(うま)口」と評す。「鶴齢も雪男も魚沼の食に合う食中酒。淡麗でキレがあり、米本来の旨味を引き出す味に仕上げている」と語る。

 魚沼の冬は、干物や漬物など保存食がよく食卓に上がる。また汗をかき懸命に働く魚沼の人は、塩気が多く濃いめの味を好む傾向にあるという。

 「土地の料理にはその土地の酒が一番合う。魚沼の地酒と食が一堂に集う『魚沼の陣』に、多くの人に来ていただきたい。そこで、雪国に暮らす人々の思いも感じ取ってほしい」と青木社長は話していた。

 (長岡支社・藤井直人)

青木酒造 創業1717年(享保2年)。青木貴史社長。主な銘柄は「鶴齢」「雪男」など。南魚沼市塩沢1214。025-782-0023。

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