第2弾 魚沼

魚沼 酒人考

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<2> 松乃井酒造場(十日町市)
古沢 裕常務(54)

味を追求 手作業で丁寧に 小さい蔵だからこそ

新潟日報 2019/09/12

 「松乃井」という名前は、赤松の脇にあった井戸の水で仕込んだ酒が、軟らかな味だったことにちなむ。十日町市の松乃井酒造場は、明治期の創業。江戸からの造り酒屋が分家したのが始まりだ。年間生産量は180キロリットル前後と小さな蔵だ。小規模を生かして手作りにこだわっている。

「心を磨き、想(おも)い醸す酒を作りたい」と語る古沢裕さん=十日町市上野甲

「心を磨き、想(おも)い醸す酒を作りたい」と語る古沢裕さん=十日町市上野甲

 同社の生産量は魚沼エリア10酒蔵の中でも、下から数えた方が早い。だが常務を務める古沢裕さん(54)は「小さい蔵だからこそ、できることがある」と言う。

 同社はデリケートなこうじ米の洗米を手作業で行っている。量が少ないからこそできることだ。

 作業はざるで手洗い。機械に頼らず手で洗うことで、吸水した水分のばらつきを抑え、米が割れる心配もないという。秋から冬の仕込み時期。井戸水を使った作業は手が凍えるほどだ。

 以前、洗米用の機械を導入したことがある。しかし、より良い洗米をするために、蔵人が「自分たちで洗いたい」と申し出たため、手作業に戻した。

 また吟醸酒以上の酒は伝統的なふねを使った袋搾り。酒袋に圧力を掛ける機械搾りに比べて、雑味が少ない味になるという。

 さらに吟醸以上は、全量瓶詰めの状態で火入れする。通常は搾った酒を管に通して加熱、急速冷却する機械を使った方法が一般的。だが同社では蔵人が瓶ごと、お湯に浸して加熱する。これも手作業だ。

松乃井酒造場の主力商品

松乃井酒造場の主力商品

 「松乃井」の名称の由来となり、かつて蔵を囲んでいたという赤松林は現在、ほとんど姿を消した。古沢さんは「以前は大きなハスの池もあったようです。水が豊かな場所にほれ込んで蔵を建てたのでしょうね」と語る。

 同社の生産量の約7割は地元消費。いわゆる晩酌の酒だ。「うま味のあるすっきりした辛口がうちの持ち味」と古沢さん。「地元に愛され、『おいしい』と言われるのが本当にうれしい。だから手間を掛け丁寧に作る」と胸を張った。

 (長岡支社・藤井直人)

松乃井酒造場 創業1894(明治27)年。古沢実社長。主な銘柄は「松乃井」「英保」「松乃井 オンナの辛口」。十日町市上野甲50-1。025-768-2047。

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