過去の衆院選

衆院選2017

 22日の衆院選投票日に向け、国の骨格に関わる憲法改正から暮らしに身近な子育て政策まで、各党が多様な争点で意見を戦わせている。それぞれのテーマの現状や今後の課題をシリーズで深掘りする。初回は「消費税」に焦点を当てた。

テーマ特集1「消費税」

財政再建議論はどこへ

【2017/10/14】

与党・教育財源化を訴え
 野党・増税凍結論が台頭

 安倍晋三首相は先月、消費税増税時の使途見直しと財政健全化目標の先送り方針を表明、その信を問うとして衆院の解散に踏み切った。一方、小池百合子東京都知事率いる希望の党などは景気に悪影響を及ぼすとして増税凍結を主張。ほかの野党各党からも有権者の痛みを伴う歳出改革などの訴えは影を潜め、財政再建に向けた議論は深まらないままだ。

<足並みそろえ>

 「アベノミクス最大の勝負に出たい」。首相は先月25日、教育無償化を柱とした「人づくり革命」への決意を語った。

 自民党は公約に2019年10月に消費税率を10%に上げた上で、増収分として見込める5兆円超のうち、2兆円規模を教育無償化などの子育て支援に振り向ける方針を明記した。従来は借金の抑制に充てるはずだったため、その分、財政の健全化が遠のく。連立を組む公明党も消費税収の教育財源化で足並みをそろえている。

 これに対し、希望の党は教育無償化を掲げる一方、増税は凍結すると明記。歳出削減に言及したが具体策に乏しい。立憲民主党や日本維新の会、共産党なども増税には反対の立場だ。

 日本の財政は、社会保障や公共事業などの歳出を税収では賄えず、赤字国債の発行で負担を将来に先送りし続ける状況が長く続いている。しかし与野党共に財政健全化の道筋は示していない。

<先進国で最悪>

 首相は教育無償化の狙いについて、低所得世帯への支援拡充で教育格差の是正を進め、加速する少子化に歯止めをかける必要があると訴える。ただ必要な財源は巨額だ。政府の試算では、3~5歳の幼児教育と保育の全面無償化には国と地方合わせて年間8千億円強、高等教育無償化は、低所得世帯向けに限ったとしても数千億円かかる。

 25年以降、団塊世代は全員75歳以上となり、医療や年金、介護など社会保障費は急速に膨らむ。厚生労働省などのこれまでの試算では、社会保障給付費は15年度の約115兆円から、25年度には150兆円程度まで拡大する見通しだ。

 国の借金がすでに1千兆円を超え、日本の財政は先進国で最悪とされる。増税や高齢者向け給付見直しなど痛みを伴う改革に切り込まない限り「社会保障制度を持続させるのは不可能だ」(政府関係者)。

 安倍首相はこれまで2度、景気への影響を理由に10%への増税を延期した。今回は教育財源化との抱き合わせで増税への意欲を示したが、先月、小池氏が増税に慎重姿勢を示すと、首相はテレビ番組で「リーマン・ショック級の事態が起こらない限り」と増税の条件に言及。「延期に含みを残した」(有力エコノミスト)との臆測を呼んだ。

 首相は12年の政権発足以降、大胆な金融緩和や成長戦略を掲げたアベノミクスを推進。企業収益は過去最高となり、国内総生産(GDP)や有効求人倍率といった経済指標は改善した。景気回復は58カ月続き、「いざなぎ景気」を超えた可能性が高い。

 それでも今回の選挙戦で財政健全化の議論は低調だ。霞が関からは「この経済環境下で増税判断ができないなら、いつ上げられるのか。各党は増税実施の条件を明示すべきだ」(経済官庁幹部)との声も漏れる。

3党合意理念が崩壊
 社会保障の負担先送り

 消費税率の引き上げを決めた2012年の民主(当時)、自民、公明による3党合意には、社会保障費を借金に頼る体質から脱却する狙いがあった。だが今回の衆院選で与野党が掲げる主張は当時の思想から離れ、財政を健全化し、社会保障の安定を確保するという3党合意の理念の崩壊が決定的になった。

 高齢化の進行で医療や年金、介護の費用が膨らみ、国の歳出に占める社会保障費の割合(当初予算ベース)は1990年度の17・5%から17年度には33・3%に増えた。現在、税収では、公共事業などを含む歳出全体の3分の2しか賄えず、赤字国債の発行という借金で将来の世代に負担を先送りしている。

 3党合意に基づく「社会保障と税の一体改革」の枠組みでは、消費税率引き上げ分14兆円はすべて社会保障の財源に充て、このうち7兆3千億円で借金を抑制することを目指した。財政が破綻してしまえば、社会保障制度も立ちゆかなくなるからだ。危機を未然に防ぐため、有権者に不人気な"増税"を与野党の枠を超えて決定したことを評価する声もあった。

 だが安倍政権は借金の抑制に充てる分を減らし、一部を教育無償化に振り向けるとして衆院を解散した。一方の野党は消費税増税への反対を掲げる。与野党共に財政健全化への具体像は示さず、消費税は政争の具と化してしまった。

 財務省関係者は「与野党の執行部も交代する中で、一体改革の枠組みは変質してしまった」と指摘する。新たな形で、社会保障の負担と向き合う覚悟を示せなければ、与野党とも「無責任」のそしりを免れない。

消費税率と社会保障給付費

≪ 衆院選2017 トップへ