【2017/10/20】
衆院選では、安倍政権の北朝鮮対応も論点の一つだ。安全保障関連法に基づき、世界最強の軍事力を誇る米国との同盟を強化する戦略は、北朝鮮を相手にどの程度効果を発揮しているのか。「抑止力を高め、国民のリスクを低減する」(安倍晋三首相)との触れ込みで成立させた安保法の是非が改めて問われる。
北朝鮮に抑止力を見せつけた事例として、政権は安保法に基づく今年5月の米艦防護を挙げる。空母型のヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」が房総半島沖で米補給艦と合流し、警戒監視に当たった。首相は10月8日のインターネット番組で「今までにない大規模な共同訓練を行った。抑止力を利かすことができた」と力を込めた。
効果も表れつつあると見る。米領グアム沖へミサイルを撃つ可能性に言及していた北朝鮮が、北海道から東に2千キロ離れた太平洋に向けて発射した8月29日。河野太郎外相は「北朝鮮が少しひるんだと思う」と記者団に強調した。軍事攻撃を示唆する米国の抑止力に恐れを抱き、飛ばす方角を変えたとの見方だ。
抑止力と制裁強化を柱とする圧力路線で臨む背景には「北朝鮮は国際社会との約束を踏みにじって核開発を続けた。対話のための対話は意味がない」(関係閣僚)との思いがある。非核化に関する1994年と2005年の合意を無視して核開発を進める北朝鮮への対応に関し、首相は街頭演説で「もう私たちにだまされている余裕はない」と言い切った。対話重視を主張する一部の野党も「北朝鮮が合意を裏切ったのは事実だ」(共産党の志位和夫委員長)と認める。
だが圧力レベルを高めても、北朝鮮の威嚇に歯止めがかからない現実は隠しようもない。北朝鮮は9月3日、6回目の核実験に踏み切り、15日には再び北海道上空を通過する弾道ミサイルを発射。10月2日に「日本の圧力騒動は日本列島に核の雲をもたらす自滅行為だ」(朝鮮中央通信の論評)と警告し、対決姿勢をあらわにした。
こうした情勢下で政権は、北朝鮮から攻撃を受けた場合の対応に追われている。「今の迎撃ミサイルは百発百中にほど遠い」(自民党筋)との声を背に、防衛省は18年度予算概算要求に改良型迎撃ミサイルの取得費472億円を計上。導入を決めた地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」は金額を示さない「事項要求」に挙げた。
抑止力で北朝鮮をねじ伏せられず、米軍が武力行使に踏み切る可能性も取り沙汰される。政権は軍事オプションを排除しないとするトランプ米大統領への支持を表明している。首相は9日の民放番組でこう語った。「どんどん状況は緊迫化している。どうするかが求められている中で、私は国民の信を問う」
集団的自衛権行使を可能にする安全保障関連法を巡り、各党の賛否は今も分かれる。自民、公明両党は(1)同法によって日米同盟が強化された(2)北朝鮮をにらみ米軍と切れ目なく連携できる意味は大きい-との立場。一方の共産、立憲民主、社民の野党3党は憲法違反だとして廃止を訴える。対立の構図は鮮明だ。
北朝鮮対応を争点に掲げる安倍晋三首相(自民党総裁)は「平和安全法制(安保法)がなければ大変なことになる」と繰り返す。共産党の志位和夫委員長は、自衛隊が米国の対北朝鮮先制攻撃に加担しかねないとして「日本が戦争の当事国になる」と反論する。
立憲民主の枝野幸男代表は同法の違憲性を指摘。「集団的自衛権を排除しても、日本周辺で日本を守っている米軍との連携は可能だ」と主張する。社民党の吉田忠智党首も反対を唱える。
希望の党と日本のこころは、自公とほぼ同じ立ち位置だ。日本維新の会も同法を支持するが、行使要件の厳格化が必要だとして法改正を促す。
北朝鮮情勢が緊迫する中で衆院解散に踏み切った首相判断も論点だ。希望の党の小池百合子代表(東京都知事)は「政治空白にしていいはずがない」と批判。首相は「(情勢悪化で)今年の暮れから来年にかけ、選挙を実施できる状況でなくなる」と説明し、解散への理解を求めている。
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