広い上越は海あり、山あり、豊かな自然に恵まれる。長野、富山の隣県に続く街道は多様な文化を運ぶ大事なルートだった。玄関口に当たる糸魚川、妙高はそれぞれ、食や観光の見どころも多い。そんな「道」を思うままに巡り、両地域の魅力を満喫した。
オカリナの軽やかな音色が、早朝の日本海に吸い込まれた。5月26日に糸魚川市市振で開かれた恒例の「海のウェストン祭」。地元山岳会の斉藤八朗さん(79)は「
登山シーズン到来を告げる海のウェストン祭
会場の親不知海岸は栂海新道の出発点に当たる。登山家の故小野健さんが中心になり、切り開いた。北アルプス朝日岳までの全長約27キロ、超健脚者向けの縦走路だ。標高差は3000メートル近く、最低でも2泊3日は必要になる。岳人憧れのロングコースには、毎年全国から多くの挑戦者が訪れる。
ウェストン像の横で、小野さんのプレートが目を引いた。写真や経歴のほか、縦走路を切り開いた功績を紹介している。妻の紀久子さん(79)は「毎年大勢の皆さんが集まり、うれしい。本人も喜んでいるでしょう」とプレートを見つめた。
ウェストン祭参加者は、そのまま白鳥山(1287メートル)の山開きへ移動した。栂海新道の北部にある秀峰として知られる。雪に覆われた山容が翼を広げたオオハクチョウに似ていることからついた名前だという。
下越の山はいっぱしに登ったつもりでいたが、上越は妙高、火打くらい。「白鳥山にも挑戦してみよう」。思い立って地元の人たちに交ぜてもらった。
白鳥山登山道に咲くカタクリ
ところが、金時坂のいきなりの急登は予想外だった。300メートルの標高差は半端じゃない。ゆっくり、ゆっくり一歩ずつ踏みしめる。坂を登り切ると、どっと疲れが出た。
登り続けていくと、頂上付近は一面の残雪に覆われていた。例年より雪消えが遅いのだという。新緑とのコントラストがまぶしい。向こうに剣岳がくっきり見える。雪の上を冷たい風が通り抜け、つかの間の涼を味わえた。
残雪を踏みしめる登山者
山頂は多くの登山者でにぎやかだ。仲むつまじく弁当を広げていたのは、富山市の40代夫妻。「白鳥山は富山で人気があるんです。地元の山みたいに感じる」と教えてもらい、うれしかった。
残雪の向こうに朝日岳方面への縦走路が伸びている。遠いなあ。でも、いつか、向こうまで歩いてみたい。後ろ髪を引かれる思いで山頂を後にした。
(糸魚川・山編は本社報道部・風間栄治記者が担当します)
大勢の岳人でにぎわう白鳥山頂=糸魚川市