糸魚川市山口の静かな山あい、塩の道資料館に子どもたちの元気な声が響いた。地元根知小の3、4年生15人が5月、郷土の歴史を勉強に来ていた。
塩の道資料館で説明を聞く根知小の児童
塩の道は糸魚川市から長野県松本市まで約120キロを結び、塩や海産物などを運んだ古道だ。
資料館は、歩荷が荷を背負う「ショイコ」やつえの「ニヅンボウ」などの民具や写真、パネルを展示している。資料706点が2004年に国の重要有形民俗文化財に指定された。
荷物を運んだショイコ
「重い塩を背負って山道を歩くのは大変だけど、人間に塩は欠かせない。どうしても必要な仕事だったんだよ」。資料館の多田浩司さん(78)が語り掛けると、児童は熱心にメモを取った。
「この道具、何?」「こんな服装で歩いたの?」と質問が飛ぶ。多田さんは一つ一つ丁寧に答え「地域の子が塩の道に理解を深めてくれれば、こんなにうれしいことはない」と笑顔をみせた。
資料館代表の田野信二さん(72)は「子どもたちはもちろん、全国からお客さんが来る。今後もずっと塩の道の歴史、文化を伝え続けたい」と熱っぽく語った。
塩の道の標柱
実際に塩の道を歩きたくなり、近くの戸倉山(975メートル)に向かった。山頂まで1時間半ほど、ファミリー向けの手頃な山として親しまれている。県山岳協会理事の猪又定次さん(75)に案内をしていただいた
猪又さんによれば、戸倉山登山道の白池から角間池までが塩の道に当たるという。距離にして数百メートルほど、20~30分だろうか。薫風に吹かれ、傾斜の緩い山道を踏みしめた。
「山の中なのに道幅が広い。牛が行き来した名残でしょうね」と猪又さん。塩の道の標柱が随所にあり、歴史ロマンを感じさせる。
戸倉山頂からは北アルプス方面を一望できる=糸魚川市
角間池を過ぎると、美しいブナ林が続く。戸倉山頂は360度の大パノラマだ。「あれが雪倉岳、こっちは焼山、明星山...」と猪又さんが教えてくれる。
親不知と北アルプスを結ぶ
豊かな自然と、奥深い歴史を併せ持つ地域の人たちがうらやましかった。