第1弾 上越地域

気ままに道めぐり

<2> 塩の道 ~糸魚川・山編(下)~

往時の苦労しのばせ 戸倉山、歴史ロマンあふれ

新潟日報 2019/06/12

 糸魚川市山口の静かな山あい、塩の道資料館に子どもたちの元気な声が響いた。地元根知小の3、4年生15人が5月、郷土の歴史を勉強に来ていた。

塩の道資料館で説明を聞く根知小の児童

 塩の道は糸魚川市から長野県松本市まで約120キロを結び、塩や海産物などを運んだ古道だ。歩荷ぼっかと呼ばれた人や牛が物資を運搬した。

 資料館は、歩荷が荷を背負う「ショイコ」やつえの「ニヅンボウ」などの民具や写真、パネルを展示している。資料706点が2004年に国の重要有形民俗文化財に指定された。

荷物を運んだショイコ

 「重い塩を背負って山道を歩くのは大変だけど、人間に塩は欠かせない。どうしても必要な仕事だったんだよ」。資料館の多田浩司さん(78)が語り掛けると、児童は熱心にメモを取った。

 「この道具、何?」「こんな服装で歩いたの?」と質問が飛ぶ。多田さんは一つ一つ丁寧に答え「地域の子が塩の道に理解を深めてくれれば、こんなにうれしいことはない」と笑顔をみせた。

 資料館代表の田野信二さん(72)は「子どもたちはもちろん、全国からお客さんが来る。今後もずっと塩の道の歴史、文化を伝え続けたい」と熱っぽく語った。

塩の道の標柱

 実際に塩の道を歩きたくなり、近くの戸倉山(975メートル)に向かった。山頂まで1時間半ほど、ファミリー向けの手頃な山として親しまれている。県山岳協会理事の猪又定次さん(75)に案内をしていただいた

 猪又さんによれば、戸倉山登山道の白池から角間池までが塩の道に当たるという。距離にして数百メートルほど、20~30分だろうか。薫風に吹かれ、傾斜の緩い山道を踏みしめた。

 「山の中なのに道幅が広い。牛が行き来した名残でしょうね」と猪又さん。塩の道の標柱が随所にあり、歴史ロマンを感じさせる。

戸倉山頂からは北アルプス方面を一望できる=糸魚川市

 角間池を過ぎると、美しいブナ林が続く。戸倉山頂は360度の大パノラマだ。「あれが雪倉岳、こっちは焼山、明星山...」と猪又さんが教えてくれる。

 親不知と北アルプスを結ぶ栂海つがみ新道の稜線りょうせんが見えた。塩の道と共に、二つの「道」は間違いなく糸魚川の宝物だ。

 豊かな自然と、奥深い歴史を併せ持つ地域の人たちがうらやましかった。

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