妙高市の新井駅前通りで開かれている朝市「六斎市」(毎月6と10のつく日に開催)を訪ねた。歴史は古く、安土桃山時代の天正年間(1573~93年)までさかのぼるという。現在は商業施設「さん来夢あらい」周辺に野菜苗、野菜、山菜、鶏卵、手作りの総菜、どら焼き、衣類などを商う40~50軒が並ぶ。
午前6時すぎ。ブルーシートが広げられ、早い人が店を開き始めた。「カリフラワーは酢漬けにして食べる直前にオリーブオイルをかけるとおいしいよ」。会話が弾む。「ありがとう」と言えば「こちらこそありがとう」。おばあさんのリュックに買ったばかりの野菜を袋ごと入れてあげる姿も見られる。
若い店主を見つけた。関温泉でイタリアンレストランと土産店を夫と経営する高崎
朝市「六斎市」の様子
朝市「六斎市」の様子
街というものは生き物だから、変容する-。流行作家のエッセーの一節が浮かぶ。この辺りにあったそば店、ラーメン店、食堂は軒並み経営者の高齢化などを理由に店じまいしてしまった。寂しい限りだ。
「やめてちょうど1年。健康面もあるし、製麺機が壊れてしまったから。でも倒産したと思われたくなくて、新聞折り込みを入れたんですよ」。昔ながらの中華そばが絶品だった店の女性店主が教えてくれた。
駅前で孤塁を守るかのように営業している山本食堂を訪ねた。山本トミ子さん(84)は「市の日は幼なじみや常連さんがたくさん来てくれる」とほほ笑む。「りらく庵」という新しい店に入ってみた。「縁があって新井に来ました。このまちには親戚も同級生もいません。でも私を受け入れてくれた。だから恩返しがしたいの」と横尾富二子さん(65)。昼は喫茶、夜は居酒屋。高齢者への配食サービスも行っているという。
山本食堂
「りらく庵」外観
夕方、防災行政無線から妙高市の歌「めぐる季節は」の美しいメロディーが流れてきた。そうだ。作詞・作曲した荒木とよひささんを招いて2006年、歌碑の除幕式があったことを思い出した。国民的大ヒット「四季の歌」は妙高地域で着想を得たとされる。
「めぐる季節は」の歌碑
日が暮れた。キムチの取材で訪れた韓国居酒屋「辛ちゃん」へ行ってみよう。建て直されて建物も店名も私が通った当時とはまったく違うが、店主の笑顔は変わらなかった。(おわり)
韓国居酒屋の「辛ちゃん」