[未来のチカラ in 長岡・見附・小千谷]
戊辰戦争、長岡空襲、中越地震-。長岡市は数々の災難を乗り越えてきた。復興の基盤は製造業を中心とする産業だ。そして今、新型コロナウイルス禍で新たな局面を切り開こうとしている。荒波を船出したベンチャー企業の挑戦や、産業界の歴史、産学官が連携したイノベーション(技術革新)創出の取り組みなどに迫り、長岡の底力を探る。
新型ウイルスが影を落とす6月上旬、長岡市にベンチャー企業「プロッセル」が誕生した。創立者は長岡高専を今春卒業した横山和輝さん(22)=新潟市東区出身=。学生を対象としたオンラインのビジネスコンテストの開催を主力事業とする。
外出自粛に伴い、就職活動のセミナーや面接がオンラインに切り替わる環境下で「オンコン」は学生、企業の双方から注目を集めている。
学生側は文系、理系を問わず全国から無料で参加。企業側が「地域活性化に関する新規事業の提案」といった課題を提示する。学生は少人数のチームに分かれ、10日間ほどビデオ会議を繰り返して課題解決に向けた事業計画を練り上げる。その過程で企業は学生の適性を見抜き、採用に結び付けていく。
学生からの相談に乗るのも横山さんの役目だ。「まずはニーズがあるか。できるだけお金をかけない方法を考えて」。自身の起業体験を重ね合わせるように、冷静なアドバイスをパソコンのマイクで伝えた。
住居兼事務所の一室でパソコンを使い、「オンコン」の運営に当たる横山和輝さん=東京都
企業が狙うのは自社に適した人材の獲得だ。インターンシップ(就業体験)の受け入れが難しくなる中、オンコンの学生同士のやりとりに関与し、個々の積極性や社交性、協調性などを見極める。
プロッセルは、そこに商機を見いだした。課題の提示や学生に対する助言、企業情報の提供を収益源にした。これまでにIT大手や建設会社などが顧客になっている。
ビジネスの種は横山さん自身の体験にあった。長岡高専でドローンの基礎研究をしていたが、2018年夏から約1年間、フィンランドの大学に留学したことで転機が訪れた。
同国から日本の企業への就職活動が思うようにできず、オンラインでの就活がアイデアとして浮かんだ。現地のビジネスコンテストに出場し、オンコンの事業計画で優勝を果たした。「これで起業したい」と決意して帰国。賛同する仲間と都内に拠点を置き、20年1月中旬に最初のオンコンを実現した。
■ ■
思わぬ形で時代のニーズを捉えた。初開催の数日後、国内で初めて新型ウイルスの感染者が確認された。感染は急速に拡大し、多くの学生、企業が「就活はどうなるのか」と不安を抱え込んだ。
「オンラインなら就活を支援できる」。オンコンを定期開催し、7月初めまでに計5回を数えた。参加した学生は米国、ベトナムなど海外も含め延べ500人以上。企業は同20社を超えた。今後は月1回のペースで開く予定だ。
横山さんは「地方にいても海外にいても、学生と企業がお互いの相性を測ることができる。そんな就活の仕組みを広く提案していきたい」と構想を描く。
新型ウイルス禍は、ビデオ会議アプリの普及やテレワークの導入など社会にさまざまな変革をもたらした。感染防止の「新しい生活様式」も始まったばかりだ。「今後は働く場所にとらわれなくなり、働き方が大きく変わっていくのではないか。当社のやり方が新しい手法の一つとして、社会に役に立つことを示していけたらいい」と将来を見据える。
本県でも、オンラインで多くの人がつながる形を知ってほしい。東京の大手だけでなく、地元企業にも使ってもらいたい。横山さんは近く、拠点を東京から長岡市に移すつもりだ。「ネットがあれば地方でもできる。母校がある長岡市や新潟県に少しでも貢献したい」。新型ウイルスと共生する社会で、新たな境地を開く挑戦が始まる。