第3弾 長岡・見附・小千谷

[未来のチカラ in 長岡・見附・小千谷]

災禍越えるまち 長岡・産業物語

<5> 育成

町工場技術つなぎ磨く 若者呼べる受け皿課題

新潟日報 2020/07/14

 鋳物を造る作業機械がうなりを上げる工場に明るい声が通る。「あとどれくらいでできる」「一緒に点検しよう」。長岡市の鋳造業「小林」で、統括部長の宮下玲子さん(43)が約30人の従業員に声を掛けて回る。同社の日常風景だ。

 1947年に祖父が創業した。宮下さんは1996年に入社し、2011年に社長だった父が急逝した後、残された母と二人三脚で切り盛りすることになった。それまでの事務から現場に移った。勝手が分からず、顧客からは製品の品質低下を指摘された。「私が勉強するしかない」日本鋳造協会が認定する鋳造技士の資格を取得するため、幼い息子2人を育てながら埼玉県での講座に1年間通った。苦労の末、14年に東日本で初めての女性鋳造技士になった。

現場で従業員を指導する宮下玲子さん(左)=長岡市宮下町

現場で従業員を指導する宮下玲子さん(左)=長岡市宮下町

 培った技術と経験を生かし、ワンマンだった父に頼っていた会社の体質を、母と共に少しずつ変えた。「社内で教わることができず苦労した分、私が習ったことはみんなに知ってもらいたい」と人材育成に力を注ぐ。

 小林は工作機械や産業機械のパーツをはじめ、多くの部品を手掛ける。製品によって熱処理など細部の工程が変わる。不良品が出た場合は実物を全員に示し、原因や解決策を考えさせて改善に導く。タブレット端末を各工程に配り、蓄積した注意点を共有できるようにした。

 「従業員が自ら考えることが今の会社のモットーだ」。仕事の質が向上し、新規の取引先も増えてきた。

 従業員とのコミュニケーションも重視する。結婚などの節目に資格の取得を持ちかけ、意欲向上やスキルアップを支える。「気持ちが前向きな時を逃さずに伝えるには、日常のやりとりが大事」と心掛ける。

 事業は企業間取引が基本で、従業員が自社製品の用途を知らないこともある。自社の街灯が使われている観光施設を社員旅行で訪れ、社会に喜ばれるものづくりを実感してもらった。

 人材不足を解決する手だてとして、外国人の活用にも前向きだ。技能実習生を含め、インドネシアやタイなどの7人を雇用。日本人と同様に育成し、語学力が足りなければ、スマートフォンの通訳アプリを活用して意思疎通する。

 経験を積み、現場の中核に育つ人も出てきた。「外国人にとっても魅力ある会社でありたい」と考える。

 今夏、母から社長を引き継ぐ予定だ。「中小企業だからこそ築ける社内のつながりがある。寄り添いながら10年、20年かけて人材を育てたい」と力を込める。

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 長岡技術科学大など4大学1高専が立地する長岡市は、ものづくりを担う人材が豊富なようだが、首都圏で就職する若者が多く、地元にどう根付かせるかは産業界の課題だ。

 長岡高専の卒業生でスマートフォンアプリ事業の「フラー」(千葉県)を創業した渋谷修太さん(31)=新潟市東区出身=は「若者が好奇心で県外に出るのは止められない。むしろ刺激を受ける方がいい」と言い切る。

 筑波大や海外生活を経て起業し、今や国内外で注目を集める若手経営者になった。「高専生の能力は高い。もっと広い選択肢を持ってほしい」。フラーは17年、長岡高専と教育に関する連携協定を結んだ。エンジニアがプログラミングを教え、渋谷さんは講演で起業家精神を伝える。

 6月には自身の拠点を新潟市中央区の新潟支店に移した。「外に出て挑戦し、地元に戻って何ができるかが勝負。それが真の挑戦だ」。自ら姿勢を示すことで道はつながると信じている。

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