[未来のチカラ in 長岡・見附・小千谷]
イノベーション(技術革新)によって産業を興し、雇用の場をつくる-。長岡市を舞台に企業、大学・高専、市の3者が連携した「長岡版イノベーション」の試みが本格化している。人工知能(AI)やロボットなど最先端の知見と産業技術を結び付け、具体的な課題解決に取り組む。市の看板施策に位置付けられる。
実働部隊が「イノベーション・ハブ」と呼ばれるプロジェクトチームだ。介護など四つのテーマで産学官の関係者が協働する。
その一つ「水ハブ」は伝統産業、錦鯉の養殖の環境改善を進める。鯉を大きくするためには餌を多く食べさせる必要があるが、その分、食べ残しやふんでいけすの水質は悪化する。
ハブでは、長岡技術科学大が開発した微生物によるろ過装置を使い、水の循環利用を検証。機械式分離機に比べ、省エネでメンテナンスの手間が少なくなると見込む。
いけすに設置したところ、鯉由来の有害成分が減少した。養鯉業者も「水の輝きが全く違う。鯉も活発に動くようになった」と効果を実感している。
水ハブの代表を務める長岡技科大の山口隆司教授は「農業の土壌改善への応用も考えている。資源を有効活用する循環型の産業構造をつくりたい」と語る。長岡発の技術が伝統産業を変える可能性を秘める。
水質改善のろ過装置(奥)の効果を検証する長岡技術科学大の研究者=長岡市大川原町
「イノベーションの先に何を描くかが最も大事だ」。テープ研磨装置を製造するサンシン会長の細貝信和さん(74)は強調する。常に時代を先取りする経営を意識してきた。
1975年に父の会社から独立する形で起業した。「何でもやる下請けではなく、独自の軸がほしい」と、国内では新興だったテープ研磨の業界に飛び込んだ。工作物をテープでこすり表面を仕上げる技術。
国内で初めてテープを製造した大手メーカーに直談判し、同社の製品を使ったテープ研磨装置の製造が認められた。フロッピーディスクなどの磁気ヘッドを手掛け、成長産業だった電子分野で躍進した。
確たる技術は時代の変化を捉え、次の成長を取り込む。2000年代に排出ガスによる環境汚染が問題になると、好機とみて自動車産業に主軸を移した。部品を滑らかに仕上げる技術が部品同士の抵抗を減らし、車の低燃費化に貢献した。エコカーの台頭とともに業績も伸びていった。
今後はグローバル化を見据え、海外展開に力を入れる方針だ。
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世界を視野に入れても、「長岡の地の利を生かさない手はない」と細貝さんは考える。拠点はあくまで長岡だ。鋳物や鉄鋼、精密加工などあらゆる製造業がそろう。サンシンも発注する部品のほとんどを市内で賄っている。
4大学1高専の知見も魅力だ。テープの消耗を抑える技術を長岡技科大と共同開発し、特許を取得した。工場内に据えられる作業機械とはいえ、外観のデザインを重んじる海外の顧客を意識し、長岡造形大に協力を仰いでいる。「産業界としても、まちとしても、もっと自分たちの強みを発信すべきだ」と指摘する。
産地の強みをいかに技術革新に結び付け、形にしていくか。「イノベーションによって生まれたものに既存企業が出資するなど、連携の流れが生まれるといい」と展望する。
戦禍や災害から立ち上がってきた長岡。新型コロナウイルス感染症がもたらす時代の変化を乗り越える、新たな発想を生み出そうとしている。
=おわり=
(この連載は長岡支社・桑原大輔、石田篤志、米岡修一郎、樋口耕勇が担当しました。)