[未来のチカラ in 長岡・見附・小千谷]
縦10センチ、横5センチ、厚さ1センチと手のひらに載るほどの薄い金属板がある。見た目には分からないが、表面には1ミリの1000分の1(マイクロメートル)単位の厚さでメッキが施され、溝が掘ってある。
長岡市内のものづくり企業2社が共同で手掛け、日本を代表する電機、電子メーカーの産業用機械に組み込まれている部品だ。
「一般には目に触れることのない部品だが、これを生み出した技術は国内トップクラスだ」。メッキをした小西
両社は共に長岡地域のものづくり企業や研究機関が集まるNPO法人「長岡産業活性化協会NAZE」の会員企業。2005年の発足直後、長岡技術科学大の研究者を通じて依頼を受け、部品を共同開発した。
高い技術を誇る中小企業が連携することで、高度なニーズに応えられることを示してみせた。
NAZEの会員企業が長岡高専を支援して製作したミズアブの分別装置=2020年1月、長岡市大手通2
NAZEは県の地場産業振興策に地元企業が呼応し、09年にNPO法人化された。現在は82の企業、大学などが名を連ねる。
小西さんは今春まで約10年会長を務めた。「個々の企業の技術を利用し合うことで、ものづくりの可能性は広がる」として、鉄工や鋳物、精密機械など長岡の各業種に交流を呼び掛けてきた。
当初はライバルに手の内を見せることを懸念し、互いの企業訪問に抵抗感を持つ会員もいた。それでも交流を進めるうち、会員企業の製造ラインのプログラミングを他社の専門人材が支援したり、大型プレス機を使って試作品を開発したりといった事例が生まれた。
NAZE常務理事の小林信行さん(51)は「多様な企業が集積しているからできる」と、連携の機運の高まりに手応えを感じている。
企業間の連携は、ビジネスの世界から、国際社会に活動の場を広げつつある。国際協力機構(JICA)の呼び掛けで長岡高専の学生がケニアの食糧事情の改善につなげる事業に手を挙げ、NAZEは技術面で支援している。
家畜の飼料になるアメリカミズアブの幼虫を生ごみから分別する装置の開発だ。生ごみを網目の細かい金属籠に順番に移してふるいにかけ、幼虫を取り出す仕組みだ。
学生の試作機は耐久性などに課題があったことから、マコーが設計を担当。金属加工業タカハシが籠を製造、工作機械部品製造の毛利製作所が籠の回転軸を提供し、改良に協力した。
NAZEには、長岡の企業の知名度を高める狙いもある。現会長で機械加工・組立業オオイ社長の大井尚敏さん(63)は「長岡の技術力を世界に発信する機会になる」と期待する。
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分別装置は2月に現地で実証実験をする予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大で足踏みが続く。一方で、一連のアイデアを長岡で実現させる動きが出てきた。売れ残った食品などをミズアブの幼虫に餌として与え、食品ロスの削減など循環型システムの実現を目指すものだ。
長岡高専の村上祐貴教授(42)らを中心に、近く発表する段階まで計画作りが進められている。NAZEも取り組みを支援する予定だ。
「先人たちが築いてきた技術力を基盤に、会員の底力を発揮して後押しする」と大井さん。企業の連携による相乗効果を、社会的課題の解決にも生かしていく考えだ。