[未来のチカラ in 県央]
植木、園芸業が盛んな地域として知られる三条市保内地区。その魅力をふんだんに取り入れているのが、木造りの建物と手入れされた木々が美しい道の駅「庭園の郷(さと)保内」だ。今でこそ、県内外の観光客や地域住民でにぎわうが、経営危機にひんした時期もあった。立て直しを担ったのが、駅長の加藤はと子さん(46)だ。
加茂市で生まれ、高校卒業後は都内の短大に進学した。イベント会社に2年勤務した後、帰郷し三条市内で就職した。結婚、出産を経て、2010年に市内で手芸店を立ち上げた。
この頃始まった露店イベント「三条マルシェ」にも出展者として関わった。しかし感じたのは「なんか、ダサいな…」という感覚。「行政や企業、団体のお偉いさん中心の運営で、母親や若者世代の心にヒットしなかった」という。そんな折、マルシェの実行委員就任の要請を受けた。
取り組んだのはボランティアスタッフの募集だった。中越地震の被災地で開かれたイベントで出会った高校生がきっかけだった。「地元の子が懸命に取り組み、『地元が好き』という気持ちが伝わってきた。マルシェも地元愛を育む一助になる」と確信した。学生、主婦、一般企業の会社員-。あらゆる層からスタッフを募った。努力は実を結び、マルシェは老若男女が楽しめるイベントとして現在も人気を集める。「街づくりは肩書でやるものではない。『普通の人』が参画できることが重要」と話す。
こうした経験を買われ、17年1月、赤字経営だった庭園の郷保内の管理責任者の話が市から舞い込んだ。真っ先に打ち出したのは「植木と花」という駅のコンセプトへの回帰だった。前年のオープン以降、商品やサービスが広がりすぎ、特色が見えにくくなっていた。「採算が取れない事業でも、植木と花というテーマに合っていれば残す。広報も必要だし、土産物も置いただけでは売れない」。商品の配置やポップを作るなど、小売店やイベントでの経験から改革に取り組んだ。
効果は2年ほどで表れ、施設は赤字から脱却した。その過程で身に染みたのは駅長業の孤独さ。「どう独自色を出して、安定経営をしていくかは全国の駅長共通の悩み。情報交換できる仕組みを作ろう」と考え、20年1月に「全国道の駅女性駅長の会」を結成した。
あらゆる立場で街づくりに関わってきた加藤さん。「主婦出身で駅長を務めるまで来られた私はすごくラッキー」と語る。「女性の働きづらさはまだまだある。後輩女子のためにも、県央地域が女性にとって働きやすい場になってほしいし、していきたい」と力を込めた。
授乳スペースを施設内のカフェに置いた加藤はと子さん。「トイレに置かれることが多いが、授乳は食事ですから」と語る=三条市下保内
行政と地元の植木農家との橋渡しをしながら、道の駅の経営を考える加藤さん。忙しい業務の合間にふっと息を抜いてリフレッシュできるのは、道の駅から眺める広大な田園風景だ。「桜が春先は本当にきれいで一番好き」という。
仕事柄、全国各地を訪れることが多いが「どこまでも平野が続くような越後平野の光景はなかなかない。昔行ったハワイの景色に似ているなと感じることもある」と笑う。季節ごとに移り変わる新潟の姿を見て、明日の英気を養っている。

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