[未来のチカラ in 県央]
「ものづくりの魅力や技術を多くの人に伝えたい」。新潟市中央区出身の福田恭子さん(28)は燕三条地域を拠点に、製品の製造・開発に携わる燕市のMGNET(マグネット)に入社し、今春で5年目を迎えた。「物をつくりたい」という企業と、地場の技術や職人をつなぐ「コーディネーター」として活躍。昨年には起業もし、目標に向かって挑み続ける。
2011年春、慶応大進学を機に上京。都会で働くことに憧れていたがその年の冬、東日本大震災被災地でのボランティア体験で価値観が一変した。「街を立て直そう」と懸命に活動する現地の大人たちの姿に心を動かされ、まちづくりへの興味が芽生えた。地域でのビジネス創出を目指し、学生向けの起業家養成セミナーを全国各地で開き、本県にも来訪。「地域を盛り上げたい」と語る県内の大学生らに共感し、ふるさとへの思いが膨らんだ。
マグネットは社長を含め社員7人。金型を製作する町工場から11年に独立した。金属製名刺入れの製造販売に始まり、地元企業と共同で製品企画・開発に取り組んだり、燕三条を中心に各産地の雑貨を扱うセレクトショップを開設したりと多様な事業を展開する。
創業者の現社長とは学生時代の活動で出会った。起業か就職かで進路に悩む中、「自分の視野を広げてくれる人」と直感。ものづくりの世界に飛び込んだ。
製造現場は衝撃と感動の連続だった。1枚の銅板からたたき起こされる鎚起(ついき)銅器や、金属板がプレス機で打ち抜かれ、磨き上げられ、洋食器など身近な物が出来上がる工程が「リアルに迫り、魅了された」と振り返る。江戸時代から続く産業を継承する職人の情熱にも感銘を受けた。「地域では当たり前で労働とも捉えられてきた製造プロセスや技術にこそ、貴い価値がある。光を当てたい」と思いを強くした。
地域外から人を招き、工場見学ツアーの案内や商談の橋渡しを務めた。消費者に近い視点でのマーケティングを意識し、地元企業のウェブサイト制作やプロモーション事業にも携わり、各社を支える「伴走者」を目指して奮闘。金属製の会員カードや県内大学のサイン(案内表示)など数々の製品も送り出した。
地場産業の可能性をさらに広げようと、昨夏、社内起業の形で設立したのが「CrowdCraft(クラウドクラフト)」。欲しい物や製品のアイデアをウェブ上で募り、技術力のある地元企業とマッチングし、製品化につなげるサービスだ。誰もが気軽にものづくりができる社会を根付かせる狙いがある。
「この地域にたどり着いたからこそ、私にできることがある」。夢に向かって着実に歩みを進める。
=おわり=
会社が運営するセレクトショップで夢への思いを語る福田恭子さん=燕市東太田
福田さんお薦めの手土産スイーツは、三条市須頃1の洋菓子店「ROOTS(ルーツ)」が手掛ける「燕三条クッキー」。金属産業の礎を築いた和くぎのほか、包丁、鎚起銅器のやかん、スプーン、フォークがかたどられ、「歴史や技術を自然な流れで紹介できる」と話す。商談相手との距離も縮まるアイテムだ。
地元製の型で作るクッキーは、長さ12センチ~15センチで「通常のクッキーの3倍」(同店)というボリューム感。バター風味をベースにココアやアーモンドなどそれぞれ味わいが異なる。1枚230円から。4枚の箱入りは1400円。
新潟日報 2021/04/14
新潟日報 2021/04/15
新潟日報 2021/04/16
新潟日報 2021/04/17
新潟日報 2021/04/21
新潟日報 2021/04/22
新潟日報 2021/04/23
新潟日報 2021/04/24