パリでの生活というと、華やかな部分もある半面、驚くことやなるほどと思うこともよくあります。今回はフランス人の時間感覚について触れてみたいと思います。
フランスに来てすぐに友人に教わったのは「遅刻ルール」。個人の家に招待された場合は必ず少し遅れて行くものよ、とアドバイスされたことも思い出します。きっかり約束の時間通りに行くと、まだ相手も来客の準備でバタバタしているから、わざと遅れて行くのです。訪問先のことを思ったフランス人ならではの配慮です。夫の話によると、仕事で客先を訪問する時も少し遅れて行くのが礼儀らしいです。
レストランも、われわれは普通は予約時間の4、5分後に行くようにしていますが、それなりのレストランの中には、予約時間にこだわる所もあります。特に客へのもてなしを大切に考えているレストランは、すべての客へのサービスを完璧にしたいという配慮からか、それぞれの客の予約時間を微妙に15分くらいずつずらし、料理を出すタイミングが集中しないようにしているようです。これは美食家の多いフランス的時間感覚のなるほどと思わせる一面です。
一方で施設の閉館時間、終了時間などはかなり融通の利かないところがあります。
例えばこんなこともありました。ある日病院で診療終了時間間際に採血をされ、その容器を院内の検査受付窓口に持って行ったら、受付終了とありました。採血をしてくれた看護婦さんに「これどうするんですか」と訪ねたら、ちょっと首をかしげ「今日はそれを自宅に持って帰って冷蔵庫に保管し、また明日の朝持ってきてください」と、何事もないかのごとく言うではありませんか。
いろいろ文句を言っても、受付が帰っちゃったから仕方ないわね、と言われ、翌朝またその容器を持って病院に行った記憶があります。ちょっと日本では考えられないことですが、これまたフランス的時間感覚の一面なのです。
滝口 真弓さん(新発田市出身)
(滝口さんは1960年生まれ。夫の転勤に伴い2011年からパリ在住です)