北京赴任前の4年ほど、毎月のように東南アジアに出張していました。そこでの楽しみは地元のスーパーに行くことでした。

 料理は一切しないのですが、見たことのない食材や日用雑貨を見ていると、その土地で生きる人たちがどのような生活をしているのかと、想像をかき立てられます。

 何も買わないで出ると、店員からいぶかしそうな目で見られるので、いつもインスタントスープを買うことにしていました。必ずご当地スープがありますので、いつしかお土産の定番になりました。

 1月末、新型コロナウイルスの影響で同じ便で入国する外国人が3人しかいない北京空港に降り立ち「封鎖生活」が始まりました。

 規律が守られ安心な半面、飲食店も休業ですから料理のできない私は、日本から持ってきたレトルト食品と、マスクに手袋をした配達員の検温記録がついているおっかなびっくりのデリバリーのローテーションを組みました。

 3月に入ると日本のレトルト食品が底をつき万事休す。意を決してスーパーに行ってみました。日本の料理系ホームページを読み、行き着いたのが「食べるスープ」です。

 日本の調味料は売っていません。ネットで調べながら中国意訳をして、何とか似た味の調味料を人に聞いて買いそろえました。

 失敗した時のために残り少ないレトルトカレーも準備しておきました。しかし、作る時間はかかりましたが、書いてある通りに作ればけっこう食べられます。すっかり悦に入ってしまいました。

 4月に入って店を開く飲食店も増え、わずか1カ月で料理への挑戦は終わりました。初めて買った真新しい調理器具を見たり、不思議な野菜を見たりするにつけ「時間があったらまたやってみようかな」と思います。いつかご当地スープが作れそうなあの不思議な名前の調味料を使って…いや、やめておこうかな。

春キャベツのスープ。紫キャベツで代用したら色が
 


村山 龍太郎さん(北京新潟県人会会員)
 (村山さんは1963年生まれの東京出身。父方の祖父母が長岡市出身。慶応大を経て石川島播磨重工業・現IHIに入社。2017年から北京に勤務しています)