第9弾 新潟市

「10年後の地域に必要なモノ、コト、人~若者の視点から考える」
-提言フォーラム詳報-

新潟日報 2022/08/03

県都の明日 輪郭示す

 新潟日報社が地域の魅力を発信する「未来のチカラin新潟市」の提言フォーラムが7月29日、新潟市中央区の新潟日報メディアシップで開かれた。市内各地で活躍する20~30代の市民7人が、県都新潟市の将来を見据えて「10年後の地域に必要なモノ、コト、人~若者の視点から考える」をテーマに提言を作成。中原八一市長を交えたパネルディスカッションでは、提言を基に新潟市の将来像を探った。フォーラムの内容を詳報する。

新潟市の住民と中原八一市長が地域の将来像を探ったパネルディスカッション=7月29日、新潟市中央区

<提言フォーラム参加者>
コンサルティング業「イードア」新潟支社長/石川翔太さん(34)
「笹祝酒造」6代目社長/笹口亮介さん(37)
「わたご酒店」店主/寺田和広さん(32)
果樹生産「とみやま農園」経営/富山喜幸さん(32)
新潟アルビレックスRC所属/広田有紀さん(27)
新潟医療福祉大学3年/山本華歩さん(20)
新潟市長/中原八一さん(63)
(提言作成メンバー)
NPO法人「リリー&マリーズ」理事長/山田彩乃さん(31)
コーディネーター/新潟日報新潟市政キャップ 本多茜(44)

ディスカッション① 理想の地域像

石川さん「起業家精神教育を先導」
寺田さん「スローガンつくり挑戦」
笹口さん「子どもを意識して企画」

-「10年後の地域に必要なモノ、コト、人~若者の視点から考える」をテーマにした提言を踏まえ、取り組みたいことなどを教えてほしい。

 石川さん 提言がどれだけ形になるかが重要。形にならなければ、僕らが踊らされていることになる。実と虚の「実」を取らなければいけない。中原市長が「もうかる農業」と話していたが、その通りで「もうかる」という視点は「実」。相対的、客観的な視点を持った「実」が必要だ。

 新潟がアントレプレナーシップ(起業家精神)教育の先進地になると面白い。子どもが社会を見ながら自分の相対性を学び、やりたいことを見つけ、実行できるようにするサイクルだ。「実」のない生き方を避ける方法論でもある。

 寺田さん 例えば若い農家が新潟にU・Iターンするかどうかの基準として、石川さんが言う「実」の部分の「もうかるか」は一つある。同時に「楽しい」「地域が好き」「住み心地がいい」というのも重要だ。

 その中で少しとがった新潟市のスローガンがほしい。米国のポートランドは「変わり者でいこう」がスローガン。うちの酒屋の「Fun to Drink;~もしかして、いま、いい時間。」もいいんじゃないかな。全国の人が聞いた瞬間に「新潟だ」と思えるスローガンをつくり、その下でいろんな人が自由にチャレンジできたら楽しい。

 広田さん 新潟の冬は屋外の競技場がほぼ使えない。中高生は学校の廊下や階段で練習していて、けがにもつながる。

 どんな天候でも、誰もが運動できる場所を提供しようと、新潟アルビレックスランニングクラブでは移動式陸上トラック「モバイルトラック」を使った活動をしている。西堀ローサや古町モール、やすらぎ堤などにも設置できる。地域活性化にも貢献できる。イベントとのコラボも視野に、新たな活用方法が生まれてくればいいと思う。

 笹口さん 自分ができるのは、日本酒を次の世代に飲んでもらうこと。子育て世代は育児で酒から離れてしまう。だったら、子どもを連れて行きたい酒蔵にすればいい。

 私たちの酒蔵では発酵や菌をテーマにした体験型プログラムを考えている。自由研究ができるような場所にしたい。都合よくいけば子どもが「お父さん、このお酒買いなよ」と言ってくれる。大人になったら飲んでくれるかもしれない。伝統産業やコメ作りなどでも子どもへのアプローチを考えるといいと思う。

 富山さん 笹口さんの言う通り、子どもに知ってもらうチャンスがあればいいと思い、農業体験をしている。生産過程を見ると農業に興味が湧く。

 果物産地の南区として自分自身も広告塔になろうと、ギネス記録に挑戦して世界一重いプラムを作った。最近では日本ゆかりのハワイの人とも交流し、「新潟は何でも採れる。食を楽しみにしてほしい」と伝えている。新潟県、新潟市を全世界に広げたい。

 中原市長 皆さんは新潟の良さや課題を気付かせてくれる方々だ。新潟の都市づくりに少しでも協力してもらい、率直な意見をぶつけていただければ本当に有益なこと。意見をいただきながら市政の発展に役立てたい。

石川翔太さん
寺田和広さん
笹口亮介さん

ディスカッション② 連携の在り方

富山さん「食テーマの交流広げる」
中原市長「都市と田園 調和し成長」

-持続可能な地域づくりにつながる連携の在り方を、どのように考えているか。

 石川さん (地元の企業に、地元以外の企業を加えた)「産産官学」の連携が必要で、それらが融合していくことで、持続可能なイノベーションが起こり続けるのではないか。ローカルに戦って存在感を上げていくというのも一つの戦い方だ。「地域を戦略にする」という発想はキーワードになる。

 寺田さん 温泉がある阿賀野市エリアとの連携の可能性もあると思う。例えば、新潟市中心部からの旅先を考えた場合、移動時間も楽しむ旅行者目線で考えると、阿賀野市へ向かい江南区に立ち寄るような旅行も提案できるのではないか。新潟市や区単位だけで考えるのでなく、広い視野で考える必要があると思う。

 広田さん 教育の観点から提案したい。一つは大学と地元企業との連携で、長岡市でも行っているように、新潟市でも市内の大学とものづくり企業が組むことはできる。もう一つは大学同士の連携。大学間で大学や新潟の魅力を共有できると思う。石川さんの言う「産産官学」で若者と新潟がつながる機会をつくっていけば、面白くなると感じている。

 笹口さん 「新潟」という表現で、新潟市のイメージが新潟県にかなり食われていることに危機意識を持っている。これに対抗するには、各区で個性を発揮することではないかと思う。個性を際立たせる方法として、8区で対抗戦を行う。例えば、SNS(交流サイト)での反響の大きさをみる「最多バズり数」など、あえて8区が競って盛り上げていきたい。

 富山さん 同じ区内でも若い農業者を知らなかったので、白根の農業を語る会というのを農家40人ぐらいで開催した。各区で地元の農業を語る会のような会を作り、意見交換しながら、飲食業者など農家以外も巻き込むことで、新潟市全体の食がブランド力を増していくのではないか。そういうコミュニティーが広くつながるといい。

 中原市長 各区を良くしていきつつ、市民のみなさんに政令市全域、広い新潟市のイメージを持ってもらうという二つの価値観を持っていきたい。田園部と都市部が調和した暮らしやすさが新潟の良さだと感じている。これからも市民のみなさんと一緒に都市部の良さ、田園部の良さをもっと伸ばし、素晴らしい新潟市を築いていきたい。

富山喜幸さん
中原八一市長

地方創生の先進地に
【提言】次世代担う人材育成を

 県都・新潟市をもっと輝かせたい-。20~30代の市民代表7人は6月から議論を重ね、若者の視点を生かした提言を作成。メンバーを代表して、広田有紀さんと山本華歩さんが発表した。

広田有紀さん
山本華歩さん

 2人は「10年後の理想像」として、新潟市が陸空海路の結節点を生かして多くの人々と交流し、イノベーション(技術革新)を生み出すこと、都市部と田園地帯の魅力を併せ持つ「地方創生の先進地」になることを掲げた。

 理想に近づけるために、新産業創出・農業・まちづくり・教育の4分野で提言を行った。

 新産業創出では「外部からの知見やノウハウ、人の流入」の必要性を強調した。一人の有名実業家が新潟市に移住、拠点を置いたことで、IT企業が集まっていると報告。県外の企業、人材の積極誘致で「情報や技術をどんどん取り入れよう」と訴えた。さらに新潟市でドローンを活用した全国初の物流モデルを作り、発信力を高めるアイデアも披露した。

 農業分野では「就農者支援とデジタル・トランスフォーメーション推進」を掲げ、やる気ある若手農家が区をまたいで情報共有する場作りを盛り込んだ。またデジタル技術の活用で、より安全安心な農産物を作り、「もうかる農業」を推し進めるよう呼びかけた。

 まちづくりでは8区それぞれの市民が地域に目を向け、魅力を磨くよう訴えた。

 一例として、西蒲区の越前浜自治会が古民家を活用した移住促進活動を進め、住民が増加したことを紹介。自然や歴史、産業を生かした住民主体のまちづくりを広げるよう提案した。

 さらに果樹、酒蔵、温泉などさまざまな強みを持つ8区が連携を深め、人と経済が循環する地域づくりも盛り込んだ。

 教育では、子どもたちが社会との接点を持つ機会を増やすよう求めた。

 具体的には、子ども食堂の運営に大学生や企業が積極的に関わり、地域の新たな拠点とするよう提案。また、県内の各大学がボランティア活動で連携を取り始めたとして、学生たちのつながりを地域で後押しするよう訴えた。

 最後に、広田さんと山本さんは8区の歴史や伝統文化、食にもう一度目を向け「身近な宝物として磨き、市外に広く発信して人を呼び込もう」と強調。「若い世代が交流する場を増やし、年代や業種を超えて連携しながら、次世代を担う人材育成につなげよう」と締めくくった。

提言内容を聞く聴衆ら=7月29日、新潟市中央区
魅力発信したい地域へ
山田彩乃さんメッセージ

 所用で提言フォーラムを欠席した山田彩乃さんから、メッセージが寄せられた。

■     ■

 新潟市は海あり山あり川ありで、都市部のにぎわいや田園地帯の四季折々の自然が共存しているとても豊かな市です。

 一方でおいしい食や湊(みなと)町の歴史、伝統文化などの魅力にあふれているにもかかわらず、地元に自信を持っている人が少ないように感じます。

 今回のフォーラムを通し、新潟市に住む私たちがより地元を愛し、魅力を発信していきたくなるような地域にしていきたいと思っています。

 私自身も、運営する子ども食堂をさまざまな年代や職種の人がつながる場にしていくことで、楽しい新潟市を目指して活動していきます。

ビデオメッセージ 花角英世知事
魅力磨いて好循環へ

 新潟市は国際空港や港湾、新幹線、高速道路網などが整備された交通拠点であると同時に、コメや野菜、果物、畜産物などの一大産地だ。信濃川、阿賀野川、福島潟、佐潟の水辺空間や里山など多くの自然に恵まれており、八つの区では、地域の個性、歴史、文化に根差したまちづくりが行われている。

 フォーラムをきっかけに、市民の皆さまから、地域が持つ豊かな魅力に気付いていただきたい。この魅力を磨き上げ、広く発信し、付加価値を高めることで、子どもたちが地域に誇りを持ち、若者が地元に住み続け、さらに関係人口の増加やU・Iターンにもつながる好循環を生み出し、活力あふれる地域になることを期待している。

 働く場として、起業などに挑戦する場所として、訪れる場として本県が選ばれる場所となるよう力を尽くして参りたい。

ビデオメッセージを寄せた花角英世知事
主催者あいさつ 佐藤明・新潟日報社社長
ともに考えたい

 未来のチカラプロジェクトは新潟日報社が総力を挙げて、2019年春から県内各地で展開してきた。

 上越、魚沼、佐渡など九つの地域に分け、それぞれ数カ月かけて、地域の魅力や可能性、課題を新潟日報の紙面やネットで伝えてきた。イベントやフォーラムを開催し、課題を探り、未来につなげていくためにやってきた。

 新型ウイルス禍を乗り越えて今、中締めとなるが、新潟市で展開中だ。

 新潟市にもいろいろな魅力や可能性があり、また課題もある。多様なエネルギーをどう新潟の未来を切り開いていくために使っていくか。

 発表いただく提言チームの皆さんには本当に熱心に議論してもらった。市長にもお忙しいところ、ご参加いただいた。

 新潟の未来に向けてのビジョンを示していただけるものと考えている。この提言フォーラムで、ともに考えていただければ幸いだ。