イノシシが踏み荒らしたあぜ、食い散らかされた農作物…。中山間地の住民は、ため息交じりに口をそろえる。「昔はいなかったのに」。新潟市のど真ん中に出没するなど野生動物であるイノシシがまちなかでも目撃されるようになった。その生息域と人里との境界が曖昧になった背景には人口減少の影がある。被害に直面する現場を訪ねた。(文・川島薫、写真・永井隆司=いずれも新潟日報上越支社)=5回続きの2
【2023/03/01】
雪のちらつく1月22日朝。新潟県上越市柿崎区にあるJAえちご上越はまなす支店の駐車場に、オレンジ色のベストを着た男たちが続々と集まった。県からの委託を受けて地元でイノシシの捕獲作業を担っている県猟友会柿崎支部のメンバーだ。
この日は区内の山中で「巻狩り」をするという。笛を吹いたり声を出したりしてイノシシを追い立てる「勢子(せこ)」と、待ち伏せする「撃ち手」に分かれる伝統的な狩猟方法だ。

「安全最優先で、矢先(銃口を向ける方向)を十分に確認してください」。小野寺健一支部長(71)が、集まった16人に大きな声で呼びかけた。ハンターたちの多くは70代。88歳の現役もいる。
この日の現場はスギ林。斜面の上から下へイノシシを追い立て、麓で待ち構えた撃ち手が狙う段取りだ。勢子は斜面をいったん登ってから対象を追うきつい役回り。「若いのは上(勢子)だろう」と分担が決まっていくが、その「若い」のも40代後半だ。...
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