残念ながら、ブラジルは世界有数の犯罪率の高さで有名です。経済の中心であるサンパウロの治安は悪化の一途をたどっています。以前は強盗事件の数こそ多かったものの、抵抗さえしなければ命まで奪われることはほとんどありませんでした。しかし、最近は凶悪犯罪が多発しており、市民の間の防犯事情も大きく変化しています。
増加する一方の犯罪に警察の捜査やパトロールが追いつかない中、警察だけに頼ってはいられない市民は各自が自衛のためにさまざまな工夫をしています。
まずは防犯カメラですが、オフィスビルだけでなく、マンションや一戸建てでも当たり前に設置されるようになりました。防犯カメラはマンションの敷地や駐車場周辺にも防犯用の電気柵とともに設置されています。玄関前にも全て取り付けられています。
プライバシーの問題を指摘する声はまず聞かれません。「プライバシーより防犯が大事」という犯罪大国の現実を物語っています。
マンションに出入りする業者も厳しくチェックされます。出入り口は住民用と業者用で完全に分けられ、業者は防弾ガラスが設置された管理室を通し身分証明書を提示しなければなりません。それでも、住人を装って強盗団が侵入する事件が起こっているため、居住者用の指紋認証ドアロックシステムを採用する所が出始めました。
外へ出れば、別の危険にさらされる可能性があります。運転中に信号待ちなどで窓ガラスを割られて荷物を取られたり、銃を突きつけられて車ごと奪われたり、そのまま銀行で現金を引き出させられたりする事件が後を絶ちません。このため、防弾車の需要が高まっています。わが家も防弾車を利用しています。
正直、自分が日常的に防犯カメラに囲まれ、防弾車を運転するなど想像もしませんでしたが、今では当たり前になっています。何だか不思議な感覚にとらわれます。幸い自分や家族が犯罪に巻き込まれたことはないのですが、いつの日かこのような防犯設備を必要としない街になってくれたらと願わずにはいられません。
佐々木 暁子さん(新潟市秋葉区出身)
(佐々木さんは1971年生まれ。在名古屋ブラジル総領事館勤務などを経て、現在はサンパウロで日本語を教えています)