福山雅治と大泉洋が再びバディを組む『映画ラストマン -FIRST LOVE-』。全盲のFBI捜査官と孤高の刑事という最強コンビが、映画と完全新作スペシャルドラマで新たな事件に挑む。信頼とユーモアに満ちた二人が、撮影秘話や互いへの思いを語った。
福山にとって2025年は、デビュー35周年という節目の年だ。音楽活動では20万人を動員するドームライブを成功させ、5作の楽曲をリリース。8月9日には、故郷・長崎のハピネスアリーナから、被爆樹木をモチーフにした楽曲「クスノキ -500年の風に吹かれて-」を5000人の大合唱とともに全国へ届けた。俳優としても主演映画2本が公開されるなど、まさにアグレッシブなアニバーサリーイヤーとなっている。
その主演作の1本が、『映画ラストマン -FIRST LOVE-』(公開中)。福山は本作で、主題歌「木星 feat. 稲葉浩志」の作曲・編曲・プロデュースも担当。作詞を稲葉浩志が手がけたことでも話題を集めている。
2023年4月期に放送された日曜劇場『ラストマン-全盲の捜査官-』の主人公は、福山演じる全盲のFBI捜査官・皆実広見。事故で視力を失いながらも、“事件を必ず終わらせる最後の切り札=ラストマン”と呼ばれる特別捜査官だ。交換留学で日本にやってきた皆実は、大泉洋演じる孤高の刑事・護道心太朗とバディを組み、数々の難事件に挑んできた。ドラマ後半では皆実と心太朗の過去の因縁が明らかになり、二人が実の兄弟だったという衝撃の事実が判明。さらに強い絆を手にした二人が、この冬、映画とドラマで史上最悪の難事件に挑む。
■「こんな人いる?」を成立させる福山雅治の説得力
――まずは改めて、皆実広見という人物について。
【福山】皆実さんは、「いるような、いないような」ファンタジーと現実、その両方を兼ね備えているところが魅力なのかと思います。そしてやはりヒーローですよね。劇中でも描かれていましたけど子どもにも人気があるという。なにか、ウルトラマン的だったり仮面ライダー的だったり。それでいて、腹黒いところや計算高いところもあって、でもそれは正義につながる腹黒さだったりする。そうしたところが魅力的であり、痛快だと感じます。
【大泉】皆実さんというキャラクターは、福山さんご自身もおっしゃる通り、超人的で、「こんな人いる?」という存在。それを見事に成立させているのは、福山雅治にしかできないと思います。ただ、皆実さんにもちゃんと“面白さ”がある。『ラストマン』という作品自体、シリアスと面白さのバランスが非常にいいんですよね。
■護道心太朗は大泉洋が行ったり来たり!?
――護道心太朗については?
【福山】護道心太朗は、まず「かっこいい大泉洋さん」だということ(笑)。影のある大泉さん、そこがすごく魅力的です。ガンアクションもキレがあって、凶暴性もあって、かつ、そんな中でもユーモアもあるという。こうした複雑な人間性を大泉さんがやる。大泉洋という俳優がやるからこそできる、護道心太朗だと感じます。何しろ大泉さんは、演じながらも護道心太朗と大泉洋を行ったり来たりするんですから。なかなかできないですよ、素晴らしいです。
――映画では、北海道愛がだだ漏れる場面がありますね。
【大泉】でもね、ちゃんと台本に書いてあったんですよ。
【福山】そうそう。勝手にやってるわけじゃないですからね。
【大泉】私も聞きました。「なんでこんなに護道さん、北海道にコミットしてるんですか?」って。
【福山】ドラマや映画、役というフレームをはみ出したり、はみ出しそうになりながらも、ちゃんと物語のキャラクターとしてストーリーを前に進められるというのは、これは本当にすごいことです。おふざけをしているだけじゃないし、大泉さん自身から生まれるユーモアを、作品全体の奥行きやキャラクターの幅につなげてしまいますから。ドラマ『ちょっとだけエスパー』でも、僕のモノマネをしてくださっていましたし、その前には宮沢りえさんと共演されていた舞台『昭和から騒ぎ』でも…。
【大泉】舞台は、福山さんから「観に行くからやって」と頼まれたんですから。『エスパー』の方は勝手に入れて、事後報告になりましたけど(笑)。
【福山】それができるのが、すごいんです。世界でも大泉さんだけです(笑)
■王道バディものだからこそ、笑いが効く
連続ドラマの最終回は、皆実が研修を終えアメリカ・ワシントンDCへ帰国し、今度は心太朗がFBIの研修で渡米することになって幕を閉じた。スペシャルドラマでは、東京でのテロ爆破事件に最強バディが立ち向かう。一方映画は、その最強バディが北海道へ。皆実の初恋の相手・ナギサ・イワノワ(宮沢りえ)との再会をきっかけに、物語は新たな局面へと進んでいく。
映画とスペシャルドラマの両作品で、念願のニューヨークロケを敢行。舞台はワシントンDCを経てニューヨークへ移り、映画とドラマをつなぐ“ある組織”を追うバディの姿が、スペシャルドラマの冒頭で描かれる。タイムズスクエアや、マンハッタンの摩天楼を臨む公園など、ニューヨークを代表するロケーションでの撮影を敢行した。
――映画&スペシャルドラマで新たに感じた見どころは?
【大泉】映画版でいうと、新たな皆実さんの見どころは、やっぱりアクションです。完成した作品を改めて観て、「こんなにアクションしてたんだ!」と驚きました。すごかったですね。撮影が終わったあとに食事をしたとき、「見てください」と、アザを見せてくれたことがあったのですが、「そりゃそうなるよな」と思いました。今回は、皆実広見のアクションが、新しい大きな見どころだと思います。
――福山さんにとってもアクションは挑戦でしたか?
【福山】すべてが挑戦でしたね。たとえば「走って船に飛び込む」というシーンがあるんですけど、「これ、本当にできるんですか?」と全盲所作指導をしてくださっているダイアログ・イン・ザ・ダークの方々に聞くと、「皆実さんならできるんじゃないですか」って。
【大泉】めちゃくちゃ、かっこよかったですよ。「飛んで」って言われてましたから。やっぱり走り姿がかっこいいんですよね。決まらない人は、どうやっても決まらないと思うんですけど(笑)、本当にかっこよかった。
護道について言うと、連続ドラマでは、自分の父親が死刑囚だと思って生きてきたという、非常に重たい十字架を背負っていました。僕としてはあまり演じないタイプの、かなり重たい役だったと思います。その中で、ギリギリのところで遊ぶというか、「こんな面白い人(皆実)が横にいたら、モノマネするんじゃない?」みたいな感覚で、ギリギリを攻めながら笑いを取っていたところもあって。そこも面白さだったと思います。映画&スペシャルドラマでは、父親は「正しい人だった」ということがわかり、実の兄と再びつながったことで、護道自身の気持ちが少し楽になっている。連続ドラマよりも、どこか晴れやかな護道さんになっている――そんな感覚で演じていました。
【福山】連続ドラマの中で、「兄弟だった」という強いつながりを描くことができたので、映画では別々に行動していても、どこかで「ピンチになったら必ず助けに来てくれるだろう」という信頼感や安心感が、作品の中にも、役柄の中にもあったと思います。それは観ている方にとっても同じだと思います。ハラハラしながらも、「いや、心ちゃんが助けに来てくれるでしょう」「皆実さんなら何とかするでしょう」と思える。その“いい意味で、正義は勝つ”という感覚が、とても丁寧に描かれている。王道に乗って、王道に向かっていく。でも、その途中でやっぱり、ユーモアがものすごく効いている。このユーモアがあるのとないのとでは、たぶん雲泥の差だと思っています。クスッと笑える瞬間があることで、物語の温度や広がりが全然違ってくるんですよね。
■極寒ロケに、ニューヨークでの追跡シーン――寒さも恐怖もリアルだった撮影現場
――撮影で印象に残っていることは?
【大泉】映画の北海道ロケでは、改めて雪がとても似合う作品だなと思いました。雪って、やっぱり美しいじゃないですか。その美しさが、「FIRST LOVE」という皆実さんの淡い初恋の物語と、すごくきれいにマッチしていて。雪の中でのアクションも素敵ですし、切ない皆実さんの初恋のエピソードを、北海道という僕の故郷が見事に盛り上げてくれていたなと、うれしく思いました。
【福山】雪のシーンは、長野県菅平高原でも撮影したのですが、なかなか大変でした。気温はマイナス15度。「撮影って、こんなに過酷なんだな」と改めて思いました。でも、出来上がった映像を見ると、吹雪の中の絵が本当にきれいなんですよね。実際には寒いし、標高も高いし、息も上がって、ハアハアしながら演じているんですけど、それが映像になると、「苦しいのに美しい」という、非常に映画的な映像になっている。
【大泉】菅平はトラウマ級に寒かったです。北海道出身の僕でも、経験したことがない寒さでした。しかも、衣装が「あんな格好で行っちゃダメだよ」っていうくらい薄着なんですよ。もう震えてしゃべれない。ガクガクガクガク、震えが止まらないんですよ。そんな中でね、福山さんも寛一郎くん(国際テロ組織“ヴァッファ”の最高幹部グレン・アラキ役)も、「用意、スタート」って言われた瞬間に、その震えをピタッと止めてちゃんと台詞を言う。私も結構長い台詞をしゃべったんですけど、びっくりするくらいNGが出なかった。自分も含めて、改めて役者って大したもんだなと思いました。
【福山】いい表情、いい目をしてましたよ。
【大泉】カットがかかった瞬間、車まで猛ダッシュです。「もう1回と言われませんように」って祈りながら(笑)。
――ニューヨークロケは?
【福山】銃を扱うというのは、ためらわれましたね。
【大泉】めちゃくちゃ怖かったです。だって、ニューヨークのど真ん中で銃を抜くんですよ?もうそれだけで怖い。警備する人も少ない。そんな状況で、ニューヨークの真ん中で「銃を抜いて、追っかけろ」って。銃が目立たないようにしながら追いかけたんです。そしたら監督が「銃が見えないから、もう少し上げて」って、2テイク目があって。完成した映像を見たら、一瞬だけ。「いや、もっと使ってよ!」って思いました(笑)。
【福山】日本だったら「撮影かな?」って空気になりますけど。
【大泉】そうそう。日本だったら、「ああ、大泉さん撮影してるんだな」ってなるけど、アメリカで見たこともない日本人が銃を持っていたら、洒落にならない。実際、本番直前にやんちゃそうな兄ちゃんが、僕の銃をジーッと見てるんですよ。それがもう怖くて、怖くて。そしたら「ムービー?」って聞かれて、「イエス!ムービー!ムービー!ソーリー!ソーリー!」って(笑)。もう必死でした。本当に怖かったです。
【福山】僕は『ラストマン』の撮影に入る前に、アル・パチーノ主演の『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』(1992年)をずっと観ていたんです。その中に、パチーノさんが白杖を持って、若者にアテンドしてもらいながら歩くシーンがあって。皆実の役作りでそのシーンを一部参考にしていたところがあったので、実際に白杖を持って、ニューヨークの街を歩く撮影ができたというのが、個人的にすごく感慨深いものがありました。
■「スターであり続ける」福山雅治の覚悟
――作品以外でも、音楽番組など仕事の現場で顔を合わせる機会も多いお二人ですが、お互いを一言で表すとしたら、どんな存在でしょうか。
【福山】僕から見ると、大泉さんはもう“大人気者”ですよね。大泉さんが現場に来るのを、キャストの皆さんも、スタッフの皆さんも本当に楽しみにしている。「今日はどんな面白いことを言ってくれるのかな」という期待感が、自然と現場に生まれるんです。人気者って、こういう存在なんだなと、改めて思います。
正直に言うと……洋ちゃんがいてくれると、ちょっと楽をしちゃうところもあって(笑)。洋ちゃんが現場の空気をつくってくれるから。“つくってくれる”というより、本人が楽しんでるんだと思いますけど、それがまたいいんですよね。
【大泉】福山さんは……どこに行っても“福山雅治”な人。それって、すごく大変なことなんじゃないかなって思うんです。一歩、家の外に出た瞬間から“福山雅治”を演じている部分があるんじゃないかなって。みんなが期待する福山雅治であり続けること、それを35年やってきている。そのこと自体が、本当にすごいと思います。
それを私がモノマネでさらに濃くしてしまっている部分もあるんじゃないかと思うんですよ(笑)。「福山雅治って、こうじゃなきゃいけない」みたいなものをね。初めてお会いした頃の福山さんは、もう少し“普通の人”だった気がします(笑)。
【福山】今回の現場でも、寛一郎くんや月島琉衣ちゃんに大泉さんが(※福山雅治のモノマネをする大泉洋の真似をしながら)「福山雅治だよ、何か聞いてみたいことある?」って言い出すんですよ。
【大泉】(大爆笑)せっかくだからね。芸能人になったからには、一度はちゃんと“福山雅治”と話せた方がいいじゃないですか。でも、みんな緊張して、なかなか踏み込めない。だから僕は、「ほら、今だよ」って。
【福山】そういう“お世話”をしてくれるんですよ。「聞きたいことあったら聞いていいよ」「思ったよりしゃべってくれるよ」って。僕としては、そう言ってもらえると楽なんです。
【大泉】でね、福山さんは自然と面白い話をする。ある時、福山さんが言ったんですよ。「やっぱり、土産話があった方がいいでしょ」って。「福山雅治に会った時、こんな人だったよって話を持ち帰れるように」って。そこまで考えてるの、すごいなと思いました。僕なんて、そこまで考えたことないです。
【福山】だって、僕らの仕事って、会ったその場だけじゃなくて、「今日、福山雅治に会ったんでしょ? どうだった?」って聞かれた時に、どう言ってもらえるか、そこまで含めて仕事だと思ってるんです。だったら、その会話の“ネタ”になるものが、ひとつでもあった方がいい。だから、話しかけられたら何か話そう、って思うんですよね。
【大泉】でも、本物のスターといえる存在っていまや貴重だと思います。
【福山】いやぁ、ありがとうございます(笑)。
インタビューの空気は終始、穏やかで、よく笑い、よく脱線する。だが、その言葉の端々からは、互いへの信頼と、この作品を“二人で背負ってきた”実感がにじみ出ていた。












