安田章大(撮影:石澤瑤祠)
安田章大(撮影:石澤瑤祠)

 SUPER EIGHTの安田章大が主演を務めた、新宿梁山泊第79回公演〈唐十郎初期作品連続上演〉『愛の乞食』『アリババ』。今夏、東京・新宿の花園神社境内に特設されたテント劇場で上演され、チケットは即完売。“幻のテント公演”として大きな話題を集めた。その公演が映像化され、20日より「PIA LIVE STREAM」にて配信されている(2026年1月20日まで)。

【写真】圧巻の世界観…安田章大主演テント演劇が映像化

 配信では、約2時間半の本編に加え、特典映像として稽古からテントの設営・撤去、公演の舞台裏までを追った45分超のメイキング映像も観ることができる。

 公式SNSで公開されたコメントで安田は「すべて観ましたが……正直、観ないと損だと思います。令和の時代にやっていることなんですけど、やっている中身はむちゃくちゃ昭和。そこがまた面白いんです。すでにテント芝居を観に来てくださった方も多いと思いますが、映像でしか味わえない良さが確かにありました。それには自分自身も、かなり驚かされました」と明かした。

 昭和40年代に初演された、アングラ演劇の巨匠・唐十郎の初期代表作を、新宿梁山泊代表・金守珍の演出により現代に蘇らせた本公演。安田は、その極限の舞台に立った経験を「人生の岐路だった」と語った。

■「人生で、病気に次ぐ大きな岐路だった」

 アイドルという肩書を持ちながら、唐十郎の戯曲でテントに立つ――その意味について、安田は強い実感を口にする。

 「何年も前から、テントに立つことの意味や意義を考え続けてきました。実際に新宿・花園神社にテントを建て、撤去までやり切れた。そのロマンをかなえられたことは、自分の人生において本当に大きな岐路だったと思います。病気を経験したことの次に来るほどの、重要な転換点でした」

 唐十郎作品との出会いは、約10年前にさかのぼる。舞台で共演した大鶴佐助に誘われ、初めて“テント演劇”を体験した。

 「もう衝撃でした。立てなくなるほどで、涙が止まらなかった。借景を取り込みながら、現実と虚構の境界が分からなくなるような、まったく異世界に連れて行かれた感覚でした」

 その原体験が、今につながっているという。

 「芝居が上手いとか、そういう基準をすべて覆すものが詰まっています。人が放つエネルギーに、ただ魅了される。それがテント演劇の凄さだと思います。唐十郎さんは生前、『臭いのしない芝居をするな』とおっしゃっていた。このテント公演には、確かに“におい”がありました。だから唐さんを知らない若い世代にも刺さる。十代から六十代まで、性別も関係なく、脳天を打たれる力があるんです」

■「すべてを見透かされる距離が、生き方まで変える」

 今回の経験は、安田自身の内面にも変化をもたらした。

 「テント演劇はお客さんとの距離が極端に近い。すべてを見透かされている状態で舞台に立つという経験は、普通に生きていてはまず味わえません。その体験を経て人生を生きていくことは、表現者としてだけでなく、一人の人間としての生き方にも直結してくる。だからこそ覚悟が必要になるし、生き方そのものが変わっていくんです。度胸がついた、というのは間違いない。病気を経験して、一度は折れない心臓になったと思っていましたが、そこからさらに一段階先に進んだ。強心臓に、さらに毛が生えたような感覚です」

■“その場限り”で終わらせてはいけない

 照明や安全が整えられた劇場ではなく、役者と観客がむき出しで向き合うテント演劇。映像化は、テントに立つことを考えた当初から意識していた。

 「この経験は“その場限り”で終わらせてはいけないと思ったんです。天候や体調、土ぼこり、虫の声、街の音――テント演劇は、そうしたすべてを含めて成立しています。その“空気ごと”残せるのが映像の力。観る側と立つ側の決定的な違いも含めて、どれほど死に物狂いで成り立っている舞台なのかを伝えたかったんです」

■「何度も観て、“誤読”してほしい」

 配信版の最大の見どころについて、安田はこう語る。

 「テントで上演する『アリババ』『愛の乞食』は、商業演劇よりもはるかにスピードが速い。『アリババ』は上演時間も約10分短いですし、せりふ量も多い。一度 観ただけでは、正直、理解は追いつかないと思います」

 だからこそ、何度も観られる配信に意味がある。

 「演出の金さんがよく言う『誤読のすすめ』という言葉があって、誤読するためには何度も観る必要がある。そうして初めて、自分だけの感性が生まれて、それが人生の中で生きてくるんです」

 唐戯曲は「全員が主人公」だとも語る。

 「誰が勝ち組か、誰が負け組か。誰が生きていて、誰が死んでいるのか。観るたびに見え方が変わる。命があるかどうかではなく、今、自分は本当に生きているのか――それを問い返してくる作品だと思います」

■「テント文化を、次の時代へ」

 テント演劇の未来について、安田には“夢”がある。

 「もし東京タワーの下でテントを建てられたら面白いなと思っています。唐十郎さんも、きっと喜んでくれるんじゃないか、と。今は厳しい時代ですが、どこかでうまくバトンをつなぎたい。アイドルという立場だからこそ、担える役割もあると思っています。今回の取り組みも、そうした未来への第一歩になれば」

 最後に、配信を観る人へのメッセージを寄せた。

 「きっと『?』がたくさん浮かぶと思います。でも、それが正解。わからないものを、わからないと言える世の中の方がいい。人生いつ何が起きるかわからないので、エネルギーは次の日に残しておかない方がいい。ギリギリに生きる。その姿勢があるからこそ、人は人に魅了されるんだと思います」