仕事は「ほどほど」でいい―。そんな「静かな退職」という働き方が注目されている。やりがいやキャリアアップを求めずに、決められた仕事を淡々とこなす働き方を指す言葉だ。2022年頃、米国のキャリアコーチが提唱し、米国のZ世代の間でTikTokを介して流行し、最近は日本でもよく耳にするようになった。

 就職情報のマイナビ(東京)が24年に実施した調査(20~50代の正社員約3000人対象)では、44・5%が「静かな退職をしている」と回答。全体の半数に迫る割合であることから、決して少数派な働き方とは言えなさそうだ。会社・組織への貢献を重視する視点からはネガティブに捉えられがちだが、価値観が多様化する現代において、仕事と人生との距離感は人それぞれ。彼らは何を思い、この選択をするのか。その実態と内なる価値観に迫った。

仕事は「無」入社11年目が選ぶ「推し活」優先の生活

中越地方の会社員女性

 「最近は、仕事に対して何も感じない。辛くもないし、悲しくもないし、楽しくもない。だから何の感情も湧かない」。中越地方の会社員女性(32)は、ことし4月で入社11年目を迎えた。仕事に対して抱く感情は「負」ではなく「無」だという。「10年働いてきたけど、正直『仕事でこんなことあったな』って覚えていることがあんまりないんだよね…。何も残さずに働いてきたかな、ってたまに思う」と語る。

 仕事は毎月給料がもらえればそれでいい。昇進を求めてガツガツ働くより、大事にしているのはプライベートだ。「昔は全然好きじゃなかったのに大人になったら『こんなにおいしいものがあったんだ』とか新しい発見がある。プライベートが充実している方が自分の世界が広がる」と話す。「お金を稼いでいるのに好きなことに使う場所がないっていうのは、もったいないよ。そんなに仕事が好きならいいけど」

◆時間とともに失われた熱量

 大学を卒業し、入社して1・2年目の頃は「一生懸命に働こう」と努めていた。「仕事っていうのは頑張らなきゃいけないものだと思っていた。すべきことは『やらねば』っていう気持ちで頑張っていた」。与えられた仕事に対して、精いっぱい取り組む姿勢は今も変わらない。その日にやらなければいけない業務があれば、残業だって惜しまない。ただ、仕事に対する熱量は、時の経過とともに徐々に失われていったという。

 「入社して10年も経てば、...

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