ポイント
・居住都道府県および近隣都道府県における大学定員の増加が、その地域の大学進学率を高めることを実証しました。
・一方で、大学定員が増加すると、親の学歴が高い子どもの大学進学率がより大きく上昇することがわかりました。
・大学定員の偏在を是正することは大学進学の地域間格差を縮小しうる一方、家庭の社会経済的背景による格差の縮小にはつながらない可能性が示唆されました。
■研究の概要
学習院大学法学部の麦山亮太准教授、近畿大学総合社会学部の豊永耕平講師らの共同グループは、高度経済成長期から2010年代に至るまでの長期データを用い、都道府県ごとの大学定員(人口あたりの大学定員供給量)の変化が、個人の大学進学行動に影響することを明らかにしました。
日本では、地域によって大学進学率が大きく異なり、大都市圏の都道府県では地方部の都道府県と比べて大学進学率が高いことが知られています。この原因の一つとして、大学の立地が都市部に偏っていることが指摘されてきました。しかし、大学(の定員)が増えると周辺地域の大学進学率が高くなるという因果関係があるのか、またもしそうした関係があったとすれば、どのような人がより大学定員の増加に反応して進学しやすくなるのかについては、十分に検証されてきませんでした。
本研究では、複数の社会調査から得た1942~1996年度生まれ(1960~2014年度に高校卒業相当)世代のデータと「全国大学一覧」「国勢調査」などの公的統計を接合させたデータを分析しました。
分析の結果、居住都道府県、または近隣の通学可能な都道府県において大学定員が増加すると、その地域に住む子どもの大学進学確率が上昇することが明らかになりました。この結果は、歴史的に実施された大学の地方分散政策*1が進学率の地域間格差の縮小に対して有効に働いたことを示しています。
一方で、大学定員の増加はどのような家庭においても均等に大学進学率を高めるわけではないこともわかりました。具体的には、親が高等教育(短大高専以上)卒である家庭の子どもは、周辺の大学定員が増えると大学進学確率がより大きく上昇することがわかりました。すなわち、大学定員の偏在を解消したとしても、それだけでは出身階層間の不平等は解消せず、別の政策が必要であることを示唆しています。
本研究成果は2026年3月27日(グリニッジ標準時間)にEuropean Sociological Review誌のオンライン版に掲載されました。
■研究の背景
大学進学は将来の所得や就職の機会に大きな影響を与えることから、大学進学機会がどの程度平等であるかが重要な社会問題として研究されてきました。とくに、家庭の経済状況などの社会経済的背景に加えて、どの地域に住んでいるかによっても大学進学機会が大きく異なることが知られています。日本においても、大学進学率は地域によって大きく異なり、都市部の都道府県では地方部の都道府県と比べて大学進学率が高いことが問題とされてきました。
こうした大学進学率の地域間格差を生む要因の一つは大学立地の偏在にあると指摘されてきました。大学の定員は東京や京都など大都市圏に多く存在し、実際にこれらの地域の大学進学率が高い傾向にあるからです。しかしこれまでの研究では、大学立地と進学率の相関関係を指摘する一方、実際に大学定員が増加すると、周辺地域の大学進学率が上昇するのかという因果関係については十分に検証されてきませんでした。
日本では、1970年代なかばから1990年代初頭にかけて、都市部への私立大学の集中を抑制する地方分散政策*1の実施、およびその規制の緩和によって各地域の大学定員数が変化してきた歴史的経緯があります。本研究は、こうした政策変化などによって起こった大学定員の時系列変化を活用し、地域の大学利用可能性の変化は大学進学確率を変化させるのか、またその効果が出身家庭の社会経済的背景(親の職業および親の学歴)によってどのように異なるのかを検証することを目的としました。
■研究の内容
本研究ではまず、「社会階層と社会移動全国調査(SSM)」*2「日本版総合的社会調査(JGSS)」*3「東大社研・若年壮年パネル調査(JLPS)」*4「教育・社会階層・社会移動全国調査(ESSM)」*5といった複数の社会調査をもとに、1942〜1996年度生まれ(1960〜2014年度に高校卒業相当)のデータを構築しました。そしてこのデータに「全国大学一覧」「学校基本調査」「国勢調査」「国民経済計算」などの公的統計から収集・作成した都道府県・年別データを接合させて分析データを構築しました。
このデータをもとに、個人が18歳時点で置かれていた居住地域の状況、具体的には居住していた都道府県における大学利用可能性(18歳人口に対する大学入学定員の比率)と、通学可能な近隣都道府県における大学利用可能性(居住都道府県以外の大学利用可能性の値を当該都道府県への通学者割合で重み付け平均した指標)を測定したうえで、これらが変化した場合に各地域に住んでいた人びとの大学進学確率がいかに変化するのかを、二方向固定効果モデル*6を用いて検証しました。
分析の結果は2点にまとめられます。第一に、居住都道府県および近隣都道府県における大学利用可能性が増加すると、大学進学確率が高まることが明らかになりました。この結果は、大学立地の偏りと大学進学率の地域間格差はたんに相関しているというだけではなく、大学立地の偏り自体が進学率の地域間格差を生じさせていることを示唆しています。また、通学可能な近隣都道府県の大学利用可能性の増加も重要であることから、分析の範囲を近隣都道府県にも拡大することによって、より大学利用可能性を適切に測定できるといえます。
第二に、大学利用可能性の増加はどの層のとっても均等に大学進学率を高めるわけではないことがわかりました。親職業別には統計的に有意な違いは見られませんでしたが、親学歴については、とくに親が高学歴である(高等教育卒)家庭の子どもほど、大学進学確率がより大きく上昇することが明らかになりました。この結果は、大学定員の拡大はすべての家庭に等しく恩恵をもたらすわけではなく、出身階層による不平等は依然として残り、場合によってはそれを拡大する可能性も示されました。
■社会的意義および今後の展開
本研究は、大学定員の地域格差を是正する政策が、教育機会の地域間格差の縮小に寄与しうることを実証的に示しました。一方で、大学供給の拡大だけでは出身階層間の大学進学率の格差は縮小せず、場合によっては拡大する可能性も示されました。教育機会の不平等を是正するためには、地域間格差の是正と出身階層間の不平等の是正とはそれぞれ別々に取り組まれるべきであることを示唆しています。
今後は、市区町村などのより細かな地域単位での分析や、子どもの性別による影響の違い、学校種別(国公立)や学部学科による違い、さらに、進学に伴う地域移動やその後の都市部への人口集中に与える影響など、より広い視野での分析を進めていくことで、大学の立地の偏りがもたらす正負の帰結を明らかにするとともに、教育機会の不平等の実態とその是正策に関する理解を深めていくことが期待されます。
■発表者
麦山亮太(学習院大学法学部 准教授)
豊永耕平(近畿大学総合社会学部 講師)
■論文情報
論文名:Changing Regional Availability in University and Inequality of Educational Opportunity in Japan
雑誌:European Sociological Review
著者名:Ryota Mugiyama and Kohei Toyonaga
URL:https://academic.oup.com/esr/advance-article-abstract/doi/10.1093/esr/jcag011/8551291
DOI:https://doi.org/10.1093/esr/jcag011
■研究助成
本研究は日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金(JP26245060, JP25000001, JP24243057, JP22223005, JP22K01851, JP21K13439, JP18H05204, JP18103003, JP17H01007, JP15H03485, JPJS00218077184)、日本経済研究センター研究奨励金の助成を受けて実施されました。
■用語解説
*1 地方分散政策:1976年から1992年まで行われた、高等教育機関の地方分散化を目指した高等教育計画。私立大学の新設や定員増加を指定された都市部(東京都23区や京都市など)では原則として認めないことで教育機会の地域間格差を是正しようとした。1993年に部分的に解除され、2002年に実質的に撤廃された。
*2 社会階層と社会移動全国調査(SSM):1955年から10年ごとに実施されている、日本の社会学分野を代表する社会調査。全国から無作為に選ばれた個人に対して出自や現在の仕事などを尋ねており、世代間移動や教育歴、職業経歴などさまざまな視点からの分析ができる。
*3 日本版総合的社会調査(JGSS):大阪商業大学JGSS研究センターが2000年から継続して実施する全国規模の社会調査。本研究では2000年から2018年までのデータを使用している。
*4 東大社研・若年壮年パネル調査(JLPS):東京大学社会科学研究所が2007年から全国の若年・壮年層を対象に毎年実施している調査。本研究では個人の継続的な変化ではなく、一時点のデータとして利用している。
*5 教育・社会階層・社会移動全国調査(ESSM):2013年教育・社会階層・社会移動調査研究会によって実施された全国規模の調査。SSMと同様に、個人の出自や教育歴を詳しく尋ねている。
*6 二方向固定効果モデル(Two-way fixed effect model):時点によって変化しない個体固有の要因と、各個体に共通する時点固有の要因の両方を統制したうえで、時点によって変化する要因の効果を推定する統計手法。今回の分析の場合、時点によって変化しない都道府県固有の要因と、全国共通に存在する時点固有の要因の両方を取り除いたうえで、大学利用可能性が変化した場合にどの程度大学進学率が変化するのかを推定することになる。
■研究に関する問い合わせ
学習院大学 法学部政治学科 准教授
麦山亮太(むぎやま りょうた)
E-mail: ryota.mugiyama@gakushuin.ac.jp
■報道に関する問い合わせ
学習院大学学長室広報センター
Tel:03-5992-1008
E-mail:koho-off@gakushuin.ac.jp
▼本件に関する問い合わせ先
学長室広報センター
TEL:03-5992-1008
FAX:03-5992-9246
メール:koho-off@gakushuin.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/







