ここまで歩んできた道のりをしみじみと語った北村匠海(C)ORICON NewS inc.
ここまで歩んできた道のりをしみじみと語った北村匠海(C)ORICON NewS inc.

 俳優の北村匠海(28)が6月1日、都内で行われた『第35回日本映画批評家大賞』授賞式に登壇。映画『愚か者の身分』で主演男優賞を受賞した。

【全身ショット】グレーのジャケットでクールに立つ北村匠海

 壇上のスピーチで北村は「ステキな賞をいただき、本当にありがとうございます。なぜ自分なのか、というのが1番最初に率直にいだいた感想ではありました。そこで選考理由を読ませていただいたところ、自分がこれまで歩んできた役者人生を全肯定してくれるものでしかなかった。間違ってなかったんだなと自分が歩んできた道を自分も少し褒めることができる、そんな時間でした」と感謝した。

 「僕は常に自分のイメージだったりとか、何かチャレンジし続けるということが、役者・北村匠海の歩んでた道だと思っている。それは自分がバンドをやっているというのも1つ大きな理由で。やっぱり音楽業界からすると『役者が音楽をやっている』、役者の世界でいると『音楽をやっている人が役者、芝居をしている』というイメージを常にチグハグなイメージを僕は抱えていたし、周りからも自分を見る目がチグハグだった印象がある。そこと戦うのではなく、チグハグな自分の印象を認めて、僕だからできる役をやろうと、それがここまで約20年歩んできた道のりでした。それが『愚か者の身分』という作品に出会わせてくれた」としみじみと語った。

 そして「今後も映画のために何ができるかを日々、考えながら、いろいろな役にチャレンジしながら、いろんな作品に出会いながら、出会いを大切にできる役者として今後精進していきます」と約束していた。

 半分は目を隠しながらの演技だった。「僕が芝居で1番大事にしているのが目の芝居なんです。まずオファーをいただいた時に、見えない先を知りたいと思って、今回の『愚か者の身分』という作品を受けたんです。だから撮影してる時も本当に物理的に見えない生活をしていた。でも、そこの中で自分の中で新たに芽生えた芝居の境地とかもある。本当にタクヤという役はすごく悲惨なの運命をたどりました。でも、彼が見せた僕だけにしか見えない景色というものがあった。自分が1番大事にしているものを捨てて初めて見つけた」と作品を振り返っていた。

 映画『愚か者の身分』は、第二回大藪春彦新人賞受賞作、西尾潤氏の同名小説が原作。愛を知らずに育った3人の若者たちの青春と、“闇ビジネス”から抜け出す3日間を描く逃亡サスペンス。

 SNSで女性を装い、身寄りのない男たちを利用して“戸籍売買”で稼ぐタクヤ(北村)とマモル(林裕太)。二人は劣悪な環境で育ち、気づけば闇バイトを行う組織の手先になっていた。闇ビジネスに手を染めつつも、時にはバカ騒ぎもする彼らは、ごく普通の若者であり、いつも一緒だった。タクヤは闇の世界に引き入れた兄貴分の梶谷(綾野剛)の手を借り、マモルとともに抜け出そうとするが…。『第35回日本映画批評家大賞』では、北村が主演男優賞を受賞したほか、作品賞、永田琴監督が監督賞、林裕太が新人男優賞(南俊子賞)を受賞した。

 同賞は、1991年に水野晴郎さん(故人)が発起人となり、淀川長治さん(故人)、小森和子さん(故人)といった当時第一線で活躍した映画批評家たちによって設立された、映画人が映画人に贈る賞。2025年に公開した映画を対象としている。

■『第35回日本映画批評家大賞』結果(※複数受賞は五十音順で表記)
◆作品賞:『愚か者の身分』(永田琴監督)
◆監督賞:永田琴監督『愚か者の身分』
◆主演男優賞:北村匠海『愚か者の身分』/吉沢亮『国宝』
◆主演女優賞:岸井ゆきの『佐藤さんと佐藤さん』
◆助演男優賞:横浜流星『国宝』
◆助演女優賞:二階堂ふみ『遠い山なみの光』
◆ドキュメンタリー賞:『みらいのうた』(エリザベス宮地監督)
◆アニメーション作品賞:『ChaO』(青木康浩監督)
◆新人監督賞:小島央大監督『火の華』
◆新人男優賞(南俊子賞):林裕太『愚か者の身分』
◆新人女優賞(小森和子賞):南琴奈『ミーツ・ザ・ワールド』
◆脚本賞:熊谷まどか・天野千尋『佐藤さんと佐藤さん』
◆編集賞(浦岡敬一賞):大川景子『旅と日々』
◆松永文庫賞(特別賞):NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター
◆ゴールデン・グローリー賞(水野晴郎賞):田中泯『国宝』
◆ダイヤモンド大賞(淀川長治賞):長塚京三『敵』

■北村匠海選考理由
 「目は口ほどにものを言う」。感情のこもった目は、セリフと同等に、時にそれ以上に気持ちを訴えかけてくる、観客を釘付けにする。しかし、その“目”という表現を奪われたら、俳優はどう演じるのだろうか。その問いの答えが、『愚か者の身分』にある。

 主人公タクヤを演じた北村匠海は、これまで数多くの作品に出演し、ラブストーリー、コメディ、アクション、青春活劇…どのジャンルにおいても、その目には多彩な感情が波打ち、幾度となく観客を引き込んできた。その目を、今作では封印した。主演でありながらも、登場シーンの約半分において、目はもちろん顔の半分を隠すという難役に挑んだ。

 映画の後半、北村の顔は常に包帯やサングラスで覆われている。物理的に目の演技が封じられているが、それでも喜怒哀楽が力強く伝わってくる。覆われたその先で、タクヤはどんな眼差しなのか容易に想像できてしまうのは、前半での演技が観客の脳裏に焼きついているからだ。通常の北村の演技を100とするなら、前半は200、いや300、それ以上の技術が求められ、それこそが、本作における北村の本当の意味での挑戦だったのではないか。

 冒頭、最初にスクリーンに映し出されるのは、橋の上からマモル(林裕太)を見つめる、とても温かい視線だった。最後、梶谷(綾野剛)と向かい合うシーンのタクヤの目は覆われているが、冒頭以上に温かい眼差しを観客は想像できてしまう。これが北村の演技の凄さなのだと思い知らされる、決定的なシーンでもある。

 今、北村は20代の俳優の最前線を走り、無敵ともいえる才能とポジションを手にしている。にもかかわらず、手にしたものを手放し、それまでのイメージを削ぎ落とし、自身のなかにスペースを作って、また新しく創り上げる、それを繰り返している。だからこそ、タクヤという役に命を吹き込むことができた。

 演技において、完璧はないと重々承知しているが、それでもタクヤを演じた北村の演技は完璧だった。