住職と消しゴムはんこ作家という不思議な二刀流で活躍している人が新潟県小千谷市にいます。麻田弘潤さん(48)は極楽寺の住職を務めながら、消しゴムはんこ作家として全国でワークショップを開いています。麻田さんが彫るお地蔵さんや鳳凰の表情はどことなくユーモラスで、温かみがあり、発信した交流サイト(SNS)の動画は最大495万回も再生されました。5年前から始めた参拝記念はんこは押してほしい人の予約で埋まってしまうほど人気なんです!仏の道と消しゴムはんこの意外な親和性とは?お寺にお邪魔して聞いてきました。
「今日は15分くらいでできる簡単なへびを描いてきたので彫っていきますね」。新年向けの取材をお願いしたら、麻田さんが2025年のえと、ヘビのはんこを彫る用意をしてくれていました。消しゴムはんこには、はがき大の専用消しゴムから好きな大きさに切ったゴムを使います。
彫り始めると、大きさの違うカッターや三角刀を使い分けてすごいスピードで彫り進めていきます。刃の入れ方には一切の迷いがありません。

ポイントを尋ねてみると、「簡単に彫れるところからカットしていくと、残された部分もシンプルになっていくのでそれを繰り返していく」と教えてくれました。なるほど。
ヘビの模様など細かい部分は、シャープペンシルの芯を出して彫っていきます。消しゴムの一面にみるみるヘビの輪郭が現れていき、あっという間に長さ約10センチ、くねくねしたヘビのはんこが完成しました。

新年らしくということで、一緒に彫ってくれた松と合わせて、消しゴムはんこ用のインクで着色していきます。このインク、インクパットが円筒形になっているので指にはめて使え、グラデーションを出したり、多色使いしたりするのに適しているのだそうです。
「今回は松が緑だからヘビは水色にしてみました。ピンクでもよかったかも」と麻田さん。彫り始めから台紙に押す時間まで含めてもわずか17分!無駄のない動きに終始見入ってしまいました。

でも住職がなんで消しゴムはんこ?その理由は2007年に小千谷市などを襲った中越地震と11年の東日本大震災という二つの災害が関わっていました。
🐍 🐍
1601年に建立された極楽寺。本堂を2003年に新築したのを機に、京都で勤めていた麻田さんも帰郷しました。当時の麻田さんは「小千谷は過疎が進んでいた。檀家(だんか)と寺の人間だけで今後寺をどうしていけばいいのか」と思っていたそうです。
そんな時に小千谷市を震度6強の揺れが襲った中越地震が発生。幸い、建て替えたばかりだった極楽寺には大きな被害がなく、町内の避難所として活用されました。
被害の大きさに胸を痛めつつ、立場も宗教も異なる人が寺に集まる光景が麻田さんの心に残りました。「立場から対立が生まれてしまうこともある。そこを超えた場所を寺が提供できたらいい」-。2006年からは地域を盛り上げようと、復興イベントを境内で開きました。
転機は2007年の復興イベント。消しゴムはんこをイベントで使うエコバッグに押すことにし、麻田さんが本を見ながら見よう見まねで彫ってみたら、上手だと評判になります。「みんなが褒めてくれたからできるんじゃないかという気になった」。

腕を磨きながら、地元でワークショップを開くなどほそぼそと取り組んでいた消しゴムはんこですが、作家に至ったもう一つの転機が東日本大震災でした。...