難病の「多系統萎縮症」で闘病中の女性が8月中旬、新潟市中央区のデンカビッグスワンスタジアムでサッカーJ1アルビレックス新潟の試合を観戦した。寝たきりで外出が困難な中、熱心なサポーターとして「どうしてもスタジアムに行きたい」との願いを施設職員らが後押し。「みんなが協力してくれて、とてもうれしかった」と感謝している。
女性は、新潟市秋葉区の介護老人保健施設「おぎの里」に入所し、2023年6月に多系統萎縮症と診断された渡辺光子さん(69)。全身の筋肉を動かす機能が低下するなどの神経疾患で、全国に約1万人の患者がいるとされる。新潟大脳研究所の石原智彦特任准教授(46)によると、原因や有効な治療法は分かっておらず、症状が進むにつれて食事や歩行、会話などが難しくなる。
渡辺さんの体に異変が現れたのは約4年前。手足に震えが出たほか、足がすくんで転ぶようになり、1年ほどで寝たきりになった。
約20年前に親戚らと観戦して以来、アルビのとりこになった渡辺さん。病気になる前は、年間パスポートを購入してスタジアムに通っていた。
「いつまで生きられるだろうか」。渡辺さんは、費用は自分が負担するとして、スタジアムでの観戦を強く望んだ。おぎの里は「どうしても見に行きたい」と訴える渡辺さんの姿を動画にまとめ、23年6月にクラブ側に届けた。
クラブによると、デンカビッグスワンで寝たきりの難病患者の観戦を受け入れた例はほとんどない。クラブ側は、空調などを備えた個室で見られるよう、スタジアム内の動線や体調が悪化した際の対応などを協議した。アルビレックス新潟営業部の星野港(みなと)さん(26)は「アルビへの熱意が強い渡辺さんのため、できるだけの準備をした」と話す。
ベッドで過ごす渡辺さんは今夏、車椅子に乗る練習を重ねた。上体を起こすと、低血圧で意識を失う危険があったからだ。おぎの里看護師の渡辺栄一さん(53)は「座ることで精いっぱい。本人が耐えられるかどうか心配だった」と語る。
迎えた8月12日、京都サンガFC戦。医師のほか施設職員11人が付き添い、渡辺さんは親戚と一緒に観戦した。

デンカビッグスワンスタジアムでアルビの試合を観戦する渡辺光子さん=新潟市中央区清五郎(おぎの里提供)
「声援がよく聞こえる」。渡辺さんにとって約4年ぶりとなるスタジアム。アルビは2-0で勝利し、リーグ戦では約3カ月ぶりのホームでの白星だった。
「やった!」。自分が見る試合で勝ってもらうことを願っていた渡辺さんは、親戚らと喜びを分かち合い、満面の笑みをピッチに送った。
渡辺さんはアルビについて、「なくてはならない存在」と声を振り絞る。「だんだん体が動かなくなるけど、頑張って生きる」。アルビの活躍を糧に、進行する病と向き合っている。