郷土資料館にある「三毛別ヒグマ事件」の展示=北海道苫前町
郷土資料館にある「三毛別ヒグマ事件」の展示=北海道苫前町

 北海道苫前村三毛別(現苫前町三渓)の開拓地で起きた「三毛別ヒグマ事件」から今月で110年となる。胎児を含め7人が犠牲になり、3人が重傷(後に1人が後遺症で死亡)を負った国内最悪の「熊害」。町の郷土資料館に保存される生存者の手紙は、襲撃の悲惨さを克明に伝える。

<三毛別ヒグマ事件> 北海道苫前村三毛別(現苫前町三渓)で1915年冬、胎児を含め10人が死傷した獣害。11月、開拓者宅軒下のトウモロコシをヒグマが複数回漁った。12月9日、付近の家で子供が襲われ、10日、食い尽くされてササや葉で隠された女性の遺体が見つかった。その日の通夜後、ヒグマは遺体のある部屋の壁を破り再襲撃。近くの家で5人が犠牲になった。14日、マタギがヒグマ1頭を駆除。胃の中から頭髪や衣服の一部が出たと言われる。

 〈五十年経過の今日も尚消さんとして消す事の出来ない記憶は生々しきものです〉

 手紙は、事件当時少年だった故明景力蔵さんが、事件を調査して書籍「慟哭(どうこく)の谷」にまとめた故木村盛武さんに宛てたもの。細かい字でびっしりとつづった。

「三毛別ヒグマ事件」を目撃した明景力蔵さんの手紙

 最初の現場は「太田家」。1915年12月9日、預かっていた少年が喉をえぐられ、側頭部に親指大の穴が開いた状態で死亡しているのが発見され、この家の女性の遺体も林で見つかった。

 翌日に襲われたのが明景さん宅だ。夜、物音がすると〈不審に思ふ間も無く〉クマが家に侵入。逃げ惑う人々を...

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