ポイント
●我々の生活に大きな影響を及ぼす夏の極端高温について、どのようなタイプの猛暑が、どの程度発生するのかを客観的に分類しました。
●日本の熱波は、太平洋高気圧の張り出しで起こることがよく知られていますが、それだけではなく、台風接近時(太平洋高気圧が張り出していない場合)にも、日本特有の“湿った熱波(極端な蒸し暑さ)”が多いことを明らかにしました。
●台風接近時の“湿った熱波”は、晴天乾燥状態で起こる世界的な熱波とは異なり、曇天時にも発生します。この熱波は、気温が高いだけではなく、高い湿度により極めて蒸し暑い状況であり、日本特有の猛暑の特徴です。さらに、この“湿った熱波”は最近30年間で増えつつあることも明らかになりました。
本成果は、日本気象学会の英文誌『Journal of Meteorological Society of Japan』に4月9日付けで掲載されました。
タイトル: Atmospheric circulation patterns associated with August heat waves in western Japan: Tropical and mid-latitude influences
著者:高橋 洋1、遠藤洋和2、高谷祐平2、尾瀬智昭2、神澤望3、仲江川敏之2
1. 東京都立大学大学院 都市環境科学研究科 2. 気象庁 気象研究所 3. 立正大学
DOI:10.1007/s44394-026-00018-3
本研究は、環境研究総合推進費(JPMEERF20242001, JPMEERF2-2202), JSPS科研費(22H00037, 24H02228, 21K18403)などの助成を受けたものです。
概要
東京都立大学大学院都市環境科学研究科の高橋 洋 准教授、気象庁気象研究所の遠藤 洋和 主任研究官、高谷 祐平 主任研究官、仲江川 敏之 部長を中心とする東京都立大学、気象庁気象研究所、立正大学の研究チームは、過去30年の気候データを用いて、西日本で高温(熱波)が発生する日の大気循環場(気圧配置)について、いくつかのパターンに分類し、その発生頻度などを解析しました。その結果、西日本で熱波が発生する気圧配置のパターンは、これまでにもよく知られていた太平洋高気圧の西への張り出しパターン以外にも、熱帯低気圧が日本に近づくパターンなどもある程度の頻度で発生していることが明らかになりました。これは、近年増えつつある熱波の発生に強く関連している可能性があります。
さらに、熱帯低気圧に関連した熱波の特徴を解析すると、太平洋高気圧が張り出していないため、曇天の状況でも発生し、熱帯低気圧による日本への多量の水蒸気の輸送により、極めて高温多湿な状況あることがわかりました。これは、近年日本を含むアジアを中心に注目されつつある、湿った熱波であると考えられます。湿った熱波とは、気温だけではなく、水蒸気量が非常に高く、極めて蒸し暑い状況(強い地域的水蒸気温室効果(※1))に該当します。大陸でよく発生する乾燥した熱波とは特徴が大きく異なり、また、私たちの生活にも影響が大きいと考えられます。
本研究は、日本を含むアジア特有の熱波について明らかにした成果の一つと言えます。今後、日本で熱波がさらに増えることが予想されますが、このような“湿った熱波”がさらに増えるのかなどについても、解析を進める必要があります。さらに、熱帯低気圧は、当然ながら豪雨なども引き起こすため、ほぼ同時に豪雨と熱波が発生する複合現象(※2)の可能性も十分に考えられ、このような複合型気象災害についてもさらなる研究が必要です。
研究の背景
日本を含めたアジアの一部は、海からの影響が大きな地域であり、アメリカやヨーロッパなどの大陸性の気候とは大きく気候の特徴が異なっています。特に本研究の対象である熱波には、大きな違いがある可能性がありますが、詳しい研究はあまり多くありません。大陸の熱波の特徴として、大陸性気候の地域は海からの影響が小さく比較的乾燥しているため、高い気温と乾いた地表面との間でのフィードバック効果(※3)で、蒸発熱による冷却が弱まり、高温状態が数日以上続きます。すなわち、乾燥した熱波が特徴的です。一方で、日本などの湿潤な地域では、大陸性の熱波とは異なり、高温−乾燥フィードバック効果が弱く、日々の天気に伴う熱波が中心です。
熱波とは、数100 km以上の異常高温の広がりが特徴であり、西日本や東日本などのある程度の広がりを持った高温現象を指します。日本でよく用いられる猛暑日とは、いくらか異なる場合があります。熱波の定義は多様ですが、ここでは、空間的な広がりを持つ高温状態を熱波と定義します。
一般的にもよく知られているように、日本の熱波は、夏季の太平洋高気圧の西への張り出しにより発生する傾向があります。高温−乾燥フィードバック効果が弱いため、熱波は長続きしせず、太平洋高気圧による熱波が、日本の熱波の大部分であると考えられてきました。
これまでにも、日本の熱波の研究が行われていますが、どのような大気の流れのパターンでどのような頻度で熱波が生じるのかについては、情報が十分に整理されていない状況でした。例えば、今回注目した熱帯低気圧に伴う熱波については、これまで広く注目されてきませんでした。台風一過の晴天などは比較的よく知られていますが、今回の“湿った熱波”はこれとは異なると考えられます。地球温暖化の影響により、日本付近でも平均気温が上昇し、熱波は年々増えていると思われますが、どのような大気の流れのパターンによる熱波が多いのでしょうか。このような疑問が、本研究のモチベーションです。
研究の詳細
過去30年の気候データ、気象庁作成の高精度の大気再解析データ(JRA-55)を用いて、西日本で高温(熱波)が発生する日を90パーセンタイル程度の高温日を熱波日として選定しました。日本の熱波の継続期間は、短い傾向が経験的には知られていましたが、実際には短い傾向があることもデータ解析から確認されました。その選定された上位10パーセント程度の熱波日について、経験的直交関数展開(EOF)手法(※4)により、大気循環場(気圧配置)についてパターンに分類し、それぞれのパターンの発生頻度と、パターンの特徴を解析しました。
その結果、西日本で熱波が発生する大気の流れのパターンは、これまでにもよく知られていた太平洋高気圧の西への張り出しパターン(図1左)が系統的に分類されました。この太平洋高気圧の西への張り出しのパターンは、中緯度の大気の波によるテレコネクションパターン(※5)との関係が示唆されます。それ以外にも、熱帯低気圧が日本に近づくパターン(図1右)などもある程度の頻度で重要であることを統計的に明らかにしました。この台風などの熱帯低気圧に関連したパターンは、近年増えつつある熱波の発生に強く関連している可能性があります。さらに、太平洋―日本テレコネクションパターン(PJパターン、※6)なども分類されました。これらは、西日本の熱波を引き起こす主要なパターンと考えられます。台風などの熱帯低気圧に関連する熱波の事例は、これまでに十分に注目されず、その頻度も明確ではありませんでしたが、本論文により統計的に示されました。
さらに、台風などの熱帯低気圧に関連した熱波の特徴を解析すると、太平洋高気圧が張り出していないため、曇天の状況でも発生し、熱帯低気圧による日本への多量の水蒸気の輸送により、極めて高温多湿な状況であることがわかりました。これは近年アジアを中心に注目されつつある、“湿った熱波”であると考えられます。湿った熱波とは、気温だけではなく、水蒸気量が非常に高く、極めて蒸し暑い状況に該当します。大陸でよく発生する乾燥した熱波とは特徴が異なり、私たちの生活にも影響が強く懸念されます。
近年の熱波の傾向については、台風などの熱帯低気圧に関連した熱波が統計的に有意に増加しています。すなわち、“湿った熱波”の頻度が増えつつあり、今後の熱波のモニタリングが重要であることを示唆しています。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202604066947-O4-66MCWlBw】
図1:太平洋高気圧張り出し熱波パターン時と熱帯低気圧接近熱波パターン時の上空約1,500 mでの大気の流れのパターン(矢印: 統計的に有意な場合のみ表示)。等値線は、ジオポテンシャル高度の気候平均からの偏差で、正の値は高気圧性、負の値は低気圧性を示す。左(右)は、ほとんどが正(負)の値で高気圧性(低気圧性)である。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202604066947-O5-KxX89xEq】
図2:(左)太平洋高気圧張り出し熱波パターン時と(右)熱帯低気圧接近熱波パターン時の上空の水蒸気積算量のパターン(白ドットなしの格子点: 統計的に有意)。値は、水蒸気積算量の平均からの偏差で、正の値は湿潤、負の値は乾燥を示す。左(右)は、高気圧性(低気圧性)で乾燥(湿潤)ある。熱帯低気圧によって、多量の水蒸気が輸送され、高温かつ高湿度の状況である。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202604066947-O6-127AN6UK】
図3:熱帯低気圧接近熱波パターン時の低気圧に伴う運動エネルギーの空間パターン。値が大きいところは熱帯低気圧活動が活発であることを示す。
研究の意義と波及効果
本研究は、アジア特有の熱波について明らかにした成果の一つと言えます。重要なことは、大陸型の熱波とは特徴が大きく異なる台風などの熱帯低気圧に起因する“湿った熱波”が発生していることです。その頻度は25%程度であり、かなりの頻度になります。今後、日本で熱波がさらに増えることが予想されますが、このような“湿った熱波”がさらに増えるのかなどについても、解析を進める必要があります。
もう一つの重要な点は、台風などの熱帯低気圧は、当然ながら豪雨なども引き起こす可能性が高いため、近くの地域で、ほぼ同時に豪雨と熱波が発生する複合現象の可能性も十分に考えられます。このような複合型気象災害についてもさらなる研究が必要です。本研究は複合現象がごくまれな現象ではなく、ある程度の頻度で起こる可能性も示唆しています。地球温暖化により、日本でも熱波がすでに増え続けているとも考えられますが、湿った熱波および複合現象の視点からの異常気象・天候の理解が喫緊の課題です。
【用語解説】
※1: 地域的水蒸気温室効果:水蒸気が強い温室効果気体であるため、水蒸気が多い環境では、下向きの赤外放射が強まることで、温室効果が地域規模で強まると考えられる。過去の第一著者の研(Takahashi et al.2015,J.Climateで提案、2015年当時のプレスリリースhttps://www.tmu.ac.jp/news/topics/11658.html)。湿度が高く蒸発(発汗)が弱まることによる効果とは異なる。下向きの赤外放射による放射加熱効果。
※2: 複合現象:二つの異なる極端現象が同時、もしくは、時空間的に近傍で発生する現象。もしくは、同じ極端現象が、複数の地域で同時に発生すること。今回は、熱帯低気圧により、湿った熱波と豪雨が近接して起こることを指す。
※3: フィードバック効果:複数のプロセスがループ状に強め合うこと。今回は、高温が地表面を乾燥させ、乾燥した地表面が気温を上げ、それがさらなる高温となり、さらに地表面が乾燥し、高温になるというループ。
※4:経験的直交関数展開(EOF)手法:主成分分析の一種で、膨大な気象データの中から、時間的・空間的に支配的な変動のパターンを抽出する統計手法。
※5:テレコネクションパターン:遠隔影響と呼ばれる。ある地域の天候(低気圧など)の変化が、大気の波動などを通じて、遠く離れた別の地域の天候に連鎖的に影響を及ぼす現象のこと。
※6:太平洋―日本テレコネクションパターン(PJパターン):日本の夏季の天候に関わる代表的なテレコネクションの一つ。具体的には、西太平洋(フィリピン付近)での対流活動が活発になると、大気の変動を通じて、日本付近で太平洋高気圧が強まり、晴天が続く傾向がある。















