【2021/07/28】

 上越市の国立病院機構「さいがた医療センター」は、アルコールやギャンブル、薬物などあらゆる依存症に対応する新潟県内唯一の病院だ。2018年10月に設立した依存症診療部門「サイダット」は、医師や看護師だけでなく、栄養士、薬剤師ら多職種の人が関わるのが特徴。自由にアイデアを出し合って治療プログラムを更新し、体験活動を充実させている。「孤独の病」といわれる依存症の患者を見守り、安らげる場所にしようと奮闘する人たちの思いに触れた。

 昼間の暑さが和らぎ、爽やかな風が吹く。13日午後7時前、上越市大潟区の渋柿浜。20人ほどのグループが、日本海に沈むピンク色の夕日に歓声を上げた。

 サイダットが月1回行う「夕日を見る会」だ。医療スタッフもジャージーやTシャツに着替え、入院患者と一緒に病院から浜辺へと十数分程度歩く。道すがら、季節の花々を説明する患者もいて、このときは「先生」の立場も変わる。

 市販薬の依存で2カ月近く入院中の20代女性は「外出する機会がなかったが、夏の暑さや湿度、香りを感じてリフレッシュできた」と晴れやかにほほ笑んだ。

 サイダット設立時から隊長を務める看護師の村山裕子さん(34)は「入院当初は元気のなかった人が、夕日を見に行けるぐらい回復すると、やりがいを感じる」。スタッフも一緒に楽しむことで患者の個性や良さが見えてくるという。

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 県内で依存症専門医療機関の連携拠点となる「治療拠点」は、さいがた医療センターと、河渡病院(新潟市東区)の二つ。河渡病院はアルコール依存症を中心に40年取り組む。一方、同センターはあらゆる依存症を対象とするが、活動実績は3年足らずだ。

 ただ、「後発組の特権」として県内外の他病院の先進事例を積極的に取り入れる。サイダットに関わるスタッフは50人以上。心理療法士や精神保健福祉士、事務職も関わる。7月現在19人が入院し、約130人が通院する。

 ユニークなのが、平日に展開する約10の多彩な体験プログラムだ。「夕日を見る会」や施設内の菜園作業、アナログゲームの遊び…コミュニケーションを重視した内容がそろう。ギャンブルや薬物など依存症の種類でプログラムを極力分けず、入院、通院患者も一緒に受ける。参加は原則自由で、強制はしない。

 こうした取り組みは、依存症を人が信じられなくなる病気とする「信頼障害仮説」を治療理念に置くためだ。虐待やいじめなどの逆境体験、周囲の期待に応えようと本音を隠し続けるなど「心理的孤立」に陥る。心を慰めるため、アルコールやギャンブルなどに頼ってしまうという。

 佐久間寛之(ひろし)副院長は「人を信じられない人に何か押し付けても余計信頼しない。楽しい体験を通じて、スタッフ、患者同士で信頼関係を築きあげていくことが回復につながる」と説明する。

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 ただ、依存症の治療は長期間に及ぶ。退院しても、依存行為を繰り返して再入院するケースは少なくない。「1回の入院や介入で依存問題を解決するのはまずない」と佐久間副院長。だからこそスタッフは居心地の良い環境を工夫し、患者が入院・通院したい場所となるように心掛ける。

 50代の男性は、アルコール依存症で2回目の入院。退院後に飲酒欲求を抑える薬物療法を途中でやめてしまい再飲酒した。「精神論でなく、コントロールできない障害なんだと肝に銘じた」と振り返る。

 「前回は大変世話になった。過ごしやすかったから、また来たんだ」という男性の言葉に、スタッフは笑顔を見せた。信頼関係を糸口に、回復の道筋を探っている。