【2021/07/31】

 あらゆる依存症の治療に取り組む新潟県内唯一の病院、さいがた医療センター(上越市)。診療部門「サイダット」を設立した佐久間寛之副院長(54)に、依存症治療の意義や本県の課題などを聞いた。

-依存症治療に取り組むようになったきっかけは。

 「元々は福島県の病院で精神科医をしており、専門は統合失調症だった。依存症の自助グループの活動に関わり、数年で別人のように回復する患者さんを見てきた。依存症は自助グループや適切な介入、さまざまな要素が組み合わさって、回復する病気だと実感した。精神科医は治すのではなくガイド役。患者自身の力を伸ばし、回復の道を見つける手伝いをしたいと考えた」

 「東日本大震災で、勤務していた福島県の病院は大きな被害を受けた。自分の命もどうなるか分からないと思ったら、やりたいことをやろうと。依存症患者の治療をやるため、神奈川県横須賀市の久里浜医療センターに移った。全国から難しい依存症患者が集まる病院で、仕事は面白く、優秀な先生もいて勉強になった。米国に留学もした。さいがたに来て、従来の依存症治療とは違うものをやろうとサイダットをつくった」

-依存症治療のやりがいは。

 「依存症は一番人間らしい病気だと思う。患者も根は人懐っこく、周囲にすごく気を遣う人もいる。仕事や家族、お金、いろんな物を失ってきて、人を信じられない人も多い。でも、こちらの関わり次第で壁も作るし、なくなったりもする。とげとげしさが取れて人間らしい部分に触れられる醍醐味(だいごみ)がある」

-2018年に心理療法士や薬剤師、栄養士ら多職種が関わるサイダットを設立。ユニークなプログラムで依存症患者の治療に当たる。

 「依存症治療はこれ一つやればOKというのはない。患者によってケース・バイ・ケースで、いろんな治療を組み合わせてやったほうが全体として効果がある。久里浜時代に、さまざまな病院の事例に触れる機会があり、患者が自由に出たいプログラムを選べる取り組みに引かれた。さいがたでも、苦痛を感じている患者にプレッシャーを与えるのではなく、楽しい体験をしてもらうプログラムにした」

 「依存症治療の結論は単純で、薬やギャンブルなどの依存行動を脱却すること。患者も分かり切っているし、入院中に繰り返し言っても効果はない。入院中に仲間と一緒に勉強したり、笑い合ったりする方が、記憶に残り効果がある。ただ、うちのやり方が全てではない。依存症患者の背景も程度もいろいろだ。患者が自分に合った所を選べる多様性が大事だ」

-本県の依存症治療の課題は。

 「県土が広いので、もう少し対応する病院が増えて、県として全体の底上げができるといい。ほかの病院が治療を始める際には、できる限り支援したい。早期対応には気軽な相談先、家族への支援も大切だ。行政や依存症を熟知する弁護士などと連携し、支援の輪を広げたい。患者らを支える次世代の人材を育てていくことも必要だ」

-今後取り組みたいことは。

 「研修会やイベントで、依存症を啓発したい。精神科の敷居は高いので、地域のコミュニティーに溶け込むためにも、私たちも町に出て、いろんな人と触れ合うのが大切。関わりを増やし連携を取りながら、つらい思いをしている人の役に立ちたい」

◎佐久間寛之(さくま・ひろし)1967年福島県生まれ。福島県立医科大卒。久里浜医療センターなどを経て2018年4月からさいがた医療センターで勤務。

=おわり=

(この連載は、報道部・大西泰三、山田晃が担当しました)