新型コロナウイルス感染症の影響で数年間、海外が遠かった。新潟から飛行機で2時間だった隣国・韓国は、ソウルへの直行便の運休が現在も続く。
その間も距離を越えて日本で広がりを見せたのが、K-POPやドラマなどの韓国製コンテンツ。家にこもりがちだった頃などに触れる機会が増えたという人も多いはずだ。
感染症の広がりに落ち着きが見えた今、新潟県から韓国・ソウルに「K-POP留学」している専門学校生がいると聞いた。彼女たちが韓国やK-POPに引かれる理由は何なのだろう。駐新潟韓国総領事館の協力で4月、BSN新潟放送とソウルを訪れ、距離や言葉の壁を越えて広がる「Kコンテンツ」に触れてきた。(デジタル・グラフィックスセンター 由井佳苗)=2回続きの1=
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韓国・ソウル市の「ソウル湖西(ホソ)芸術実用専門学校」。新潟市出身の田村瞳さん(19)が、レコーディング室のマイクの前に立った。歌い始めたのは、K-POP女性グループ「BLACKPINK」の曲だ。「いい感じだから緊張しないで」。ガラスを隔てたモニター室から、講師が韓国語で呼びかけた。

レコーディングの授業に臨む田村瞳さん(奥)。留学先の授業ではK-POP独特の呼吸や振り付けを教わることができるという
田村さんはK-POPアイドルを目指し、国際音楽・ダンス・エンタテイメント専門学校(略称・SHOW、新潟市中央区)で学ぶ専門学校生だ。4〜7月の3カ月間、学校の同級生と4人で韓国に留学し、寮生活を送りながら歌やダンス、語学の授業を受けている。
SHOWによると、K-POPを学べる学科がある専門学校は日本国内では他にない。「K-POPエンタテインメント学科」は2017年度に開講し、現在の在校生約60人のうち新潟県外出身者は7〜8割を占める。田村さんと共に留学している斉藤杏さん(19)と山口彩音さん(19)は長野県の出身、仲宗根実希さん(19)は沖縄県の出身だ。

4人の留学先の「ソウル湖西芸術実用専門学校」。人気オーディション番組「少年ファンタジー」の出演者らを輩出している
「日本のアイドルになりたいと思ったことはない」と4人は言う。日本のアイドルは「歌やダンスより、かわいさや愛嬌(あいきょう)が重視されるイメージ」なのだという。
アイドルというよりも、アーティストに近いのだろうか。第一線で活躍するグループは「みんなパフォーマンス力がものすごく高く、歌、ラップ、ダンスがどれも完璧」(仲宗根さん)という。彼女たちがあこがれる「何でもできて完璧」(斉藤さん)な姿を体現するのがK-POPアイドル、ということのようだ。
韓国のアイドル育成システムは、芸能事務所所属の練習生になり、歌やダンスのレッスンを積みながらデビューを目指すのが一般的だ。練習生になっても毎月の審査でふるいにかけられるなど、競争は厳しい。
田村さんは、歌やパフォーマンス技術の高さを競うK-POPアイドルの「全員本気」な姿勢にも引かれる。留学先での講師の指導は厳しいが、それが楽しいのだという。

韓国の大手芸能事務所「SMエンタテインメント」の本社が入るビル。日本での知名度が高い「BoA」や女性グループ「aespa(エスパ)」、男性グループの「EXO(エクソ)」などが所属する
4人に聞くと、K-POPに出合ったのは中学生の時という声が多かった。「BTS」や「TWICE」らが活躍し、K-POPの人気がユーチューブやSNSを通じて北米や欧州まで広がった頃と重なる。
その頃から、世界進出を念頭にK-POPアイドルの多国籍化が進んだともいわれる。中国やアメリカ、タイ、日本など、さまざまな国の出身者で構成するグループは数多い。2022年の紅白歌合戦に出演した女性アイドルグループ「TWICE(トゥワイス)」「LE SSERAFIM(ルセラフィム)」「IVE(アイヴ)」の3組には、いずれも日本人メンバーがいる。
山口さんが見据えるのも世界だ。「オーディションで日本人メンバーを募集していることが多い。そのチャンスをつかみたい」と話す。
韓国では芸能事務所などが行うオーディションが毎週のようにあり、日本にいる時よりも機会は格段に多い。斉藤さんも留学中にオーディションを受けるつもりで、「ダンスや歌だけでなく、語学力にも磨きをかけたい」と意気込む。

ソウルの観光名所「景福宮」を訪れ、伝統衣装「韓服」を着て記念撮影する(左から)山口彩音さん、斉藤杏さん、仲宗根実希さん、田村瞳さん。アイドル志望だけに、カメラに向けて瞬時に表情を作る「表情管理」がうまい
K-POPが彼女たちの心をつかんでからの数年間、日韓関係は必ずしも良好とはいえなかった。仲宗根さんは、留学前に心配もあったと明かした。
しかし、韓国でできた友人のほとんどが「あいみょん」や「YOASOBI」などのJ-POPを聴いていることを知り、「私たちは同じなんだと思った」
7月には留学先の学校の成果発表会があり、韓国の芸能事務所関係者も見に来る。仲宗根さんは、夜遅くまで練習しているクラスメートを見て、夢を目指す思いの強さにも共感している。「日本と韓国、どちらの国にもいい影響を与えるアイドルになりたい」と語った。