新潟市中央区の鳥屋野潟南部開発を巡り、新潟市が県に対し「意見書」を提出したことが分かりました。鳥屋野潟南部開発では、多くの買い物客が訪れることが見込まれる「倉庫型商業施設」の開業も噂されており、駐車場不足やそれに伴う渋滞の発生が心配されています。新潟市はどんな意見を出したのか?一体、駐車場は何台分が必要なのか?独自に調べてみました。

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 県条例に基づいて開発事業者の大和ハウス工業(大阪市)などが2025年1月、県に提出した届出書によると、開発する三つのエリアで計2852台分(従業員用288台分を含む)の駐車場が整備される計画です。届け出の内容について県は5月中旬まで、自治体や県民から意見を募っていました。

開発事業者が県に提出した建物の配置図

 これに対し、計4件の意見書が寄せられました。1件は渋滞悪化など住環境への影響を懸念している新潟市民オンブズマン、2件は住民など個人とみられ、残る一つが地元の新潟市でした。

開発予定地

 新潟市は意見書で「可能な限り駐車場を確保いただくようご検討をお願いいたします」と要望。開発事業者が駐車場規模の算出に用いた「自動車分担率」という数字の設定について、問題点を指摘しました。

 「自動車分担率」とは徒歩やバス・鉄道など市民の移動手段の中で自動車が占める割合のことです。割合が高いほど「自動車移動への依存度が高い」ことを意味します。

 事業者は今回の計画で分担率「40%」を採用しました。40%という設定は「大規模小売店舗立地法」に基づいて大型店舗が出店する際、自治体への届け出手続きで用いられる数字だそうです。

 例えば、最も店舗の合計面積が大きいC街区(1万8510平方メートル)の駐車場台数の計算は、現時点で以下の通りとなっています。

(※計算式は少し複雑なので読み飛ばしていただいても結構です)

1130人(店舗面積当たり日来店客数原単位)×18.510(店舗面積/1000)×0.40(自動車分担率)×0.144(ピーク率)÷2.4(平均乗車人員/台)=502台(ピーク1時間当たりの自動車来台数)

502×1.70(平均駐車時間係数)=854台

 事業者がはじき出したC街区の駐車台数は「854台」でした。これに従業員用駐車台数などを上乗せし、届け出た駐車場の総数は「992台」でした。

 同じ計算式でA街区は「993台」、B街区は「867台」。3つの街区を合わせると「2852台」になっています。

◆記者も計算してみると…

 しかし、新潟市が2022年度に実施した「新潟市内都市交通特性調査」では、市内の自動車分担率は「72%」という結果でした。事業者が採用した数字と30%以上の開きがあります。

 ちなみに、国土交通省が行った「全国都市交通特性調査」(2021年度)によると、新潟など地方都市の平均値は61%。新潟市は全国の地方都市より車への依存度が高いことが分かります。

 新潟市は提出した意見書で、72%で計算すると「現状確保予定の駐車台数では不足する結果となる」と指摘したのです。

 それでは「72%」で試算した場合、算出される駐車場台数はどうなるのでしょうか?

 記者が独自にC街区で計算してみた結果…

1130人(店舗面積当たり日来店客数原単位)×18.510(店舗面積/1000)×0.72(自動車分担率)×0.144(ピーク率)÷2.4(平均乗車人員/台)=903.58台(ピーク1時間当たりの自動車来台数)

903.58×1.70(平均駐車時間係数)=1536

 「1536台」と、事業者側の数字と比べて倍近くまで増えました。

 A、B街区もそれぞれ同じように計算し、三つの街区を合算すると、従業員用を除いたお客さん用の駐車場台数だけでも「4062台分」が必要となり、計画の駐車場台数と少なくとも約1200台の差が生じました。

 参考までに、アルビファンにはおなじみかもしれない、デンカビッグスワンスタジアムの近くにある「アルビレックス新潟・鍋潟駐車場」が約1000台分の収容だそうです。

 実際に1000台分を確保するとなると、かなりの敷地が必要となりそうです。

エリア

届け出上の
駐車場

自動車分担率
72%では?

A街区

993台

1284台

B街区

867台

1242台

C街区

992台

1536台

2852台
(いずれも従業員用含む)

4062台
(いずれも従業員用含まず)

 新潟市に計算結果を確認すると、市の計算でも同様に4062台になるとのことでした。

 県への届け出とは別に、開発事業者は施設開業の8カ月前までに新潟市に大規模小売店舗立地法に基づく届け出をする必要があります。新潟市はこれまで、鳥屋野潟南部とは別の開発事業の審査でも、事業者側に40%にこだわらず駐車場増設の検討などをするように求めてきたそうですが、市独自の数字の採用を求めたのは今回が初めてだということです。

 72%という具体的な数字を挙げて県に意見した理由として、市は新潟日報社の取材に「県条例の対象になるほどの大規模開発であり、今後の手続きに向け、実態により近い、直近の分担率の調査結果を付けた」などと説明しました。

 大和ハウス工業広報企画部は取材に対し「新潟市が県に提出した意見は認識している」とした上で、「今後、店舗の具体的な建築計画が決まっていく段階で、市の意見も参考にしながら、あらためて駐車場台数を算定していく」と答えました。

 大和ハウス工業によると、今後、駐車場の計画台数が変わる余地もありそうです。

◆「コストコ渋滞」回避には事前の備えが重要

 鳥屋野潟南部開発で噂される「倉庫型商業施設」。その集客力の半面、オープンに伴う「コストコ渋滞」は全国で課題になってきました。昨年8月に沖縄県南城市にできた店舗では、周辺で激しい渋滞が発生。南城市によると、開店から1カ月以上、入店まで3、4時間かかる状態が続いたそうです。

 ことし4月、山梨県南アルプス市にできたコストコでも、激しい渋滞が予想されました。しかし、ふたを開けてみるとオープン初日は夕方に約2キロの渋滞が起きたものの、大きな混乱はありませんでした。

コストコにつながる道路。オープン初日だが、渋滞は発生していない=2025年4月11日、山梨県南アルプス市

 南アルプス市と山梨県は、駐車場入場待ちの渋滞を防ぐため、店舗近くの四つの交差点の右折レーンを延長するなどの対策を事前に行っていました。こうしたハード整備などが功を奏した形です。

 鳥屋野潟南部の開発予定地は、高速道路やバイパスのインターチェンジが近くにあります。一方、一番近い鉄道駅はJR信越線の越後石山。直線距離で約3キロも離れています。立地から、車で訪れる人がほとんど、ということも考えられます。

 新潟市も既に道路拡幅などの方針を示しています。ただ、そもそも駐車場が足りなく、出入り口が詰まるようなことになれば、影響は周辺道路に広がります。

 また南アルプス市と違うのは、開発予定地を囲むようにビッグスワンやハードオフ・エコスタジアムという万単位で人が集まるスポーツ施設、スーパーセンタームサシ新潟店やスーパーのロピアなどがある「アークプラザ新潟」、「イオンモール新潟亀田インター」という既存の大型商業施設が周辺にある点です。

 現状でもアルビのホームゲームの際には、試合後に激しい渋滞が起きています。試合は週末開催が多く、商業施設の来店者が多くなる日と重なります。南アルプス市以上の対策が必要になるかもしれません。

 新潟県は届け出された計画について、専門家らによる審議会を開きます。既に1回目は非公開で行われており、議論がまとまり次第、花角英世知事に答申する予定になっています。新潟市の意見などがどのように反映されるのか注目されます。...

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